半分寝ているような顔の陽介を連れて、諒は人にぶつからないように廊下を歩いていく。

「遅くなるなら、変なのにからまれないように気をつけろよ」

「うん。あ」

 陽介の視線の先、3人の女子がこちらに向かって歩いて来るところだった。その中心にいるのは。


「木ノ芽藍……」

 ぼんやりとしていてつい、口に出してしまった。は、とあわてて口元を抑えたが、自分の名前を呼ばれたことに気が付いた木ノ芽が近寄ってくる。


「陽介君? なあに?」

 にっこりと笑顔で答えられた陽介は、戸惑う。その笑顔は、夕べの無表情とは180度違い夏の太陽のように明るかった。


 そうだ、と陽介はあらためて思い出す。自分の知っている木ノ芽藍は、こういう女子だった。

 直接話したことはないが、いつでも笑っている印象がある。彼女のまわりには、男女問わず人のきれることがない。

 夕べの女性は木ノ芽と呼ばれて肯定の返事はしなかったが、今目の前にいる本人とは雰囲気がまるで違う。


(あれ? もしかして、俺の勘違いだったのかな?)

 いまさら何でもないとも言いづらく、陽介は仕方なく口を開いた。