「……あれ?」

 固まったまま目が離せずにいた陽介は、ゆらゆらとしたその影を見ていて気づいた。

「木ノ芽さん?」

 おそるおそる声をかけると、陽介と同じ歳くらいの女性がゆっくりとこちらを向いた。わずかに、その目が見開かれる。

「あ、やっぱり。2組の木ノ芽さんでしょ? 俺、4組の宇都木。宇都木陽介。同じ保健委員の。こんな時間に何やってんの?」

 安心した反動で、少しわざとらしいほどに明るく声をかける。心臓がバクバクしているのを知られるのは、なんとなく恥ずかしかった。

 木ノ芽と呼ばれたその女性は、陽介の問いかけに応えることもなく、ふいと背を向けて歩き出した。その方向を見て、陽介はあわてて追いかける。

「あの、ちょっと、木ノ芽さん!? どこ行くの?」

 彼女の歩き始めた方向は、霊園のさらに奥に続く道だ。夜も遅い時間に女子高校生が一人で行く場所ではない。

 追いかけてくる陽介にも、その女性は振り向きもしない。

「こんな遅くに一人で危ないよ? 誰か一緒にいるの?」

 走って追いつくと、陽介は彼女の前に回りこむ。

 あらためて見れば、彼女の着ていたのは、すとんと足元までおちている飾りも何もない白いワンピースだけ。見るからに寒そうだ。