ちょうどいい場所にあるその四阿に望遠鏡を設置すると、陽介ははやる胸をおさえてそれを覗き込んだ。レンズを見ながら細かい調整をしていく。残念ながら陽介の予算ではとても自動追尾を買うまでには至らなかったので手動だ。

 そうしてとらえた光点に、陽介は目を輝かせる。

 フォーマルハウト。

 暗い空に一際明るく光るその星を、息をつめたまま陽介は見つめた。

 もちろん、肉眼でも見ることはできるが、初めての望遠鏡に通す光は何にしようと思ってこの星に決めた。

 その光が山の中に吸い込まれるように消えていったのは、あっという間のことだった。山に囲まれたこの土地では、ほんのわずかなその時間しか目にすることはできない。それも、大気が曇っていない夜の限定だ。今日は、昨日の雨で空気が澄んでいたので、見ることができると陽介は確信してここへきた。

 無意識のうちに止めていた息を大きく吐いて体を起こす。

 たった数分のことだったが、なんとなくそれだけでもこの数か月の苦労が報われた気がして、陽介は十分満足だった。

 高揚した気分で陽介は、持ってきたコーヒーを飲もうと荷物を振り返った。

 と。

 左手の少し先の方に、白い影がゆらりと動いた。

(げ)

 そこには、長い髪のほっそりとした女性らしき影が見えた。陽介の背筋に冷たいものが走る。