「私、わかったよ。これが、恋、なんだね。私には、体験を、伝えるという目的、があったから、不必要な感情は、持っちゃ、いけないって、思ってた。でも、止められなかった。どんどん、陽介君を、好きに、なっていって……恋をしたい、って陽介君に思った時、私、もう、恋をしていたんだね。陽介君のおかげで、私、幸せ、だった」

「俺も。俺も藍に会えて、幸せだった」

「陽介君」

 ジジ、と耳障りな機械音がその言葉に混ざる。

「あなたの、知らない、私に、会いに来て。もうすぐ、あの子は、目を、覚ますから……」

 黙って聞いていた木暮が、は、と息をのむ。

「行くよ」 

 陽介は、藍の手を握ったまま即答する。

「必ず、会いに行く」

「もしかしたら、私は、あなたを覚えていないかも、しれない。けれど、もう一度、あなたと、恋がしたい。だから、会いにきて」

「約束する」

 陽介は、柔らかくて冷たい藍の頬に手を添える。

「俺たち、また、会えるよな?」

「うん……絶対…………約束、よ……」

 キュウウと甲高い音がして、藍の目から感情が消えた。陽介の見つめるそれはもう、ガラス玉のように冷たい色に変わってしまった。

 部屋中に響いていた機械音が、藍の言葉が消えると同時に、また元のように規則正しい静かな音に戻る。

 ふと、何かに気づいたように木暮が藍に近づいた。開かれた頭部の中に触れると、なにやら操作をする。シュ、と軽い音がして、小さいチップが取り出された。

「君を、待っていたのか」

 わずかの体温すらもない藍の細い指を握ったまま、陽介はまた少しだけ、泣いた。