「いいの。それは、最初から、わかっていた、ことだから」

 たどたどしく、藍は言葉を繋いでいく。

「陽介君に、伝え、たかったの」

「何を?」

 藍の言葉を一つも聞き逃すまいと、陽介は膝をついて藍に近づいた。



「ありがとう」

 そんな陽介に、藍は柔らかく笑みを作る。

「私は、『藍』のために、たくさんの、体験を伝えるのが目的で作られた。起動した『私』には、女子高生としての、知識がデータとして記録されていた。でも、それは『知って』いるだけ。いろんなことを聞いて、見て、眠っている藍のための経験を、作るのが、役割」

「うん」

「学校、楽しかったよ。友達もいっぱいできた。たくさん遊んで、勉強もして、楽しかったり、悲しかったり」

「うん」

「陽介君とも、星の話、たくさんしたよね。陽介君の声、好きだった。もっと聞いて、いたかった。他の、友達とは、違う、陽介君は、私の『特別』だった」

「うん……」

「一緒に笑って、手を繋いで……恋を、して」

「藍……」



 頬を涙が伝っていったが、陽介はぬぐっている間などなかった。残り少ない時間、わずかの間も藍から目を離すことはできなかった。