陽介は、静かに藍のそばに近寄る。

「藍」

 もう答えない藍の手をそっと握って、陽介は囁いた。

「ごめんな。俺がお前に感情を押し付けたせいで……こわいって、言ってたのにな……ごめん。ごめんな……」

 藍の白い手に、ぽつり、と一粒、陽介の涙が落ちた。冷たい手を握りしめて、陽介は泣いた。



「……け……ん……」

 がたん、と椅子を倒して、木暮が立ちあがった。陽介も、顔をあげる。急に、機械の警告音が強くなる。

「よう、す……」

 藍の目が開いていた。あまつさえ、微かな笑みを浮かべて陽介を見ている。



「藍?!」

「そんな……」

 陽介と木暮が驚く中で、藍の小さい声が響く。

「違う、よ……陽介君、のせいじゃ、ない……だから、泣かない、で……」

 陽介は、ぐい、っと涙をぬぐう。



「泣いてなんかない! それより、藍、お前」

「聞いて。時間が、ないの」

 その言葉通り、消え入りそうな声で藍が言った。

「この私は、もう、消えてしまう」

「そんな……!」