「まさか、ただのプログラムにこんな感情を持つことになるとは……誰も、予想もしなかったよ。AIで作られた藍は、本当に、あの子が、動いているみたいで……だから次は、藍の顔じゃない、数種類の女子高生のサンプルを組み合わせた顔を持つアンドロイドを使用することになった。でなければ……俺たちは……」

 次第に細くなっていく語尾を、陽介は立ちすくんだまま聞いている。今まで淡々としていると思っていた木暮にもこれほど激しい感情があるんだと、ぼんやりと考えながら。

「この、藍は、いつ……」

 かろうじて絞り出した声に、ため息混じりの木暮の声が答えた。

「記憶集積のマイクロチップさえ取り出せればこの藍はもう必要ない。だが」

 木暮は、今までとは違う種類の困惑の表情を浮かべる。

「なぜかチップが取り出せないんだ」

「故障、ということですか?」

「わからない。だが、何度やってもロックが開かない。確認しても、故障個所が見当たらないんだ。これではまるで……」

「まるで?」

「藍が、自分の意思でロックをかけているみたいだ」

 起動スイッチはすでに落としてあり、この個体が動くことはない。そのはずなのに、ロックだけが開けることができない。そんなことはあるはずがないのだが。