「藍の事故をきっかけに、研究は急速に進められた。おかげで、2年前、ようやくアンドロイド作成の最終段階に入ることができた。そこで我々は、今まで集めてきた藍のデータをこのアンドロイドに移植し、なおかつ人としての生活の中で行動と感情をアンドロイドが学習して新しく作り出せるかの研究にうつった」

「学習して作り出す……俺、あんまり詳しくないですけど、もともとがAIって学習してタスクを増やすことができるものなんじゃないものですか?」

「そう。だが今までのそれは、あくまで学習した複数の事象を組み合わせて最適解を選び出していくシステムだ。我々が研究しているのは、人間が外部からの干渉にたいして通常持ち得る普通の感情についてだ。一番難しかったのは、忘れる、という現象だな。AIは一度覚えたことは忘れないが、人間は忘れる。生身の人間でも忘却は個体差が大きい」

 次第に独り言のように木暮は続けた。

「感情を持ったAI……」

 陽介の眉間にしわがよる。

 陽介の知っている藍は、くるくると表情を変え、悲しい、嬉しいの感情を存分に表現できる少女だった。

 それが、全部ソフトで作られたものだったとは、とうてい信じられない。