「アダプターをつける時だけは若干煩わしかっただろうか、チップ自体は5ミリ平方程度のものだし、つけているという実感はないそうだ。基本的に、こちらから彼女の感情に働きかけることはなにもしない。あるがままの人の感情を収集することが目的だった」

「なんで藍が……」

「変化していく人間のサンプルを長期的に集めるのには、ある程度人格形成ができてしまっている大人よりも、成長過程にある子供の方が適していたんだ。たまたまうちには子どもがいたから、サンプルに選ばれた。目の届くところにいれば、不測の事態にもすぐに対応できるしな」



「あんたも、そうやって感情を集められてきたのか?」

「俺は幼いころから優秀だったから、一般的な児童のサンプルとしては不適当とみなされた。その代り5歳で渡米して飛び級で学籍をおさめ、父のいる開発者チームに加わることになった」

「頭いいんだな」

 素直に感心した陽介に、木暮は、軽く笑んだ。その表情からは、教諭をしていた時よりも幾分か気安くなっている様子がうかがえる。