「ばーか、あんたの味方をしたわけじゃないわ。いい加減な医者を作りたくないだけよ。それより、東大とは大きく出たわね」

 陽介は、ずるずるとソファーに沈み込む。

「本当になあ。行きたい研究室があるのは嘘じゃないんだ。だからあんなふうに啖呵きったのはいいけど、今の成績じゃぎりぎりだ」

「なによ、後悔しているの? ちょっと見直したのに。よし、またスパルタするか」

 トレーを軽く振った香織に、陽介は苦笑する。



「確かに成績はあがるんだよなあ、姉さんのスパルタ」

「あったり前よ。そういや、どっかいくんじゃなかったの?」

「あ」

 言いながら時計を見れば、父と話しているうちにもう人の家を訪ねる時間ではなくなってしまっていた。

(仕方ない。明日にしよう)



 胸は騒ぐが、かといって藍の家族に悪い印象を持たれたくない。それに、何よりも妹を大事にしている木暮が一緒にいるなら、きっと大丈夫だ。そう自分に信じ込ませた。

 陽介は体を起こすと、香織の持ってきたコーヒーカップを持ち上げた。



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