「進学は、東大に行きたいと思っている」

「なに?」

 さすがに、最高学府の名をあげると秀孝の目が丸くなった。

「俺のやりたい研究をしているチームがあるんだ。そこに入りたい」

「む……」

 しばらく考え込んだあと、秀孝は立ち上がった。



「父さん」

「お前は、目の前の課題から逃げているだけだ。子供のたわごとなど聞くに堪えん。もっとしっかりと現実をみろ」

「ちゃんと見ているよ! それで考えた進路なんだ」

「夢みたいなことを言っているのは、まだ子供の証拠だ。くだらないこと言っていないで、次回のテストでまだ成績が戻らないようなら、クラブ活動をやめて塾を増やせ。わかったな」

 そのまま秀孝はリビングを出て行ってしまった。



「まあ、はいそうですかと言うような人じゃないわよね」

 のんびりと香織に言われて、陽介は大きく息を吐いた。

「わかっていたけど……」

 すました顔で香織は、秀孝が手をつけなかったコーヒーを飲み始めた。

「でも、ちゃんと自分の意見が言えたじゃない。それだけでも大きな進歩だわ」

「うん。姉さん、ありがとう。俺の味方をしてくれて」

 医学部にむけて頑張れと勉強を見てくれていただけに、陽介にとって姉の言葉は意外だった。