「君はもうホテルに帰りたまえ。高木先生には連絡しておく」

「俺も一緒に行く」

「必要ない」

「でも……!」

「藍もそれを望んでいない」

 は、として陽介が木暮を見上げると、厳しい目が陽介を見ていた。そして、わずかにだが目元をほころばせた。



「この子を大事にしてくれてありがとう」

「え…?」

 高台をおりた二人の前に、タクシーが二台とまる。ドアが開くと、木暮は運転手にホテルの名を告げて陽介にのるように促した。



「本当に、藍は大丈夫なんですね?」

 睨むような陽介の視線を、木暮はまっすぐに受け止めた。

「私がついている」

「……信用しますよ」

 ふ、と木暮が笑った。



「それは、どうも」

 促されるままにタクシーに乗った陽介は、走り出したタクシーの中から自分を見送る木暮の影をじっと見つめていた。