混乱している陽介の前で、木暮は動かない藍を抱え上げた。

「動かすな! 頭を打っていたら……!」

「大丈夫だ」

 静かな声でそう言って器用に片手で電話を取り出すと、タクシーを呼んだ。そしてもう一か所どこかにかけると、短い対応ですぐ通話を切った。

 冷静な木暮の様子を見て、ふと陽介は違和感を持った。

 普段、なによりも藍の体調を心配する木暮が、倒れている藍を目の前にしては落ち着きすぎている。まるで……



「藍が倒れることをわかっていたのか?」

 眼鏡の向こうの瞳が鈍色に光る。

「可能性は高いと思っていた。それだけの無理をさせたからな」

「なんで、そんな」

「藍の希望だ」

 その声に、若干の寂寥感を感じて陽介は木暮の顔をのぞき込んだ。その表情を確かめる前に、木暮は藍の体を抱いて立ち上がった。

「こちらのラボ……病院にもあらかじめ連絡をとってある」

 陽介は手早く荷物を片付けると、公園をでる木暮についていく。