「今の私じゃ……だめなの。奇跡でも、ないかぎり……」

 泣きそうな藍の様子に、陽介は戸惑う。

 うぬぼれでなく、藍は陽介に好意を持ってくれていると思っている。なのに、なぜ藍がそこまで陽介を拒むのかわからない。潤んだ瞳を見つめながらわずかに視線を藍の後ろに投げた陽介は、何かに気づいて、小さな声で言った。



「あのさ」

「なあに?」

「キスしてもいい?」

「え……でも……」

 きょとんとした藍は、陽介の視線を追って振り返り、木暮がこちらに背を向けて遠くで電話をしているのをみつけた。



「今度はちゃんと許可を取ったからな。……だめかな?」

 囁く陽介に、藍はつかの間迷った後、ゆっくり顔を近づけた。

 微かに、二人の唇が触れ合う。目をあけた藍が、ぼうっとした表情で言った。