「俺、嫌われたのかも」

「陽介が? 何か藍ちゃんに嫌われるようなことしたの?」

「そんなつもりは……ないんだけど……結果的に、藍を傷つけたのかもしれなくて……」

 歯切れの悪い陽介に、皐月は肩をすくめて意図的に明るく言った。



「藍ちゃんが誰かをそこまで避けるのって、見たことないわ。よほど怒ってるんじゃないの?」

「そうなのかなあ」

 からかったつもりだったのに、不安そうな顔で振り向かれて皐月は内心驚いた。

「そんなに……藍ちゃんのこと……」

「え? なんだって?」

「ううん」

 皐月は、にっこりと笑う。



「大丈夫よ。何やったか知らないけど、藍ちゃんならちゃんと謝れば許してくれるわよ」

 そう言った皐月を、百瀬たちが前の方で呼んだ。

「はーい! ……いつまでもそんな顔してないで、気になるならさっさと謝っちゃいなさいよ。陽介なら大丈夫よ。せっかくの修学旅行なんだから、一緒に楽しも」

 皐月の言葉に、陽介は目を瞬くと笑った。

「ありがと。お前、本当にいい奴だな」

 それを聞いて、皐月は目を細めると少しだけ顔をゆがませた。



「そんなの、褒め言葉じゃない」

「そうか?」

「そうよ」

 そう言って皐月は、思い切りあっかんべーをすると百瀬たちのところへと走っていった。