「うわあ。買わなくて正解。な、陽介」

「うん……」

 面白がって諒は鹿団子を指さすが、陽介は生返事を繰り返すばかりだ。

「なんだよ、まだバスに酔ってるのか?」

「ん? バスがなんだって?」

 陽介の視線は、あちらこちらにさまよっている。その様子を見て、諒は陽介が何を気にしているか気づいた。



「誰か、探しているんでしょ」

 諒とおなじことに気づいていた皐月が、隣から声をかけた。陽介は気まずそうに顔をそむける。

「いや、別に……」

「嘘。2組はとっくに興福寺よ」

 は、と陽介はその言葉に反応してしまう。半分はかまをかけたようなものだったが、皐月は自分の勘があたってしまったことにため息をつく。

 あまりそのことには触れたくはなかったが、陽介の姿を見ていてたまらずに口にした。



「陽介、最近、藍ちゃんと全然話ししてなくない?」

「……」

 皐月は、複雑な表情で続けて聞く。

「藍ちゃんと、何かあったの?」

 クラスの流れに乗って興福寺に向かいながら、陽介は小さく呟いた。