「クラスごとに整列。点呼とるぞー!!」

 浮かれる生徒たちを前に、高木が声をはった。

 まだ薄暗い夜明け前、高校の校庭には数台のバスと大勢の生徒がいた。



 生徒の合間をぬって自分のクラスに向かっていた陽介は、向こうに藍を見つける。

 今日なら。そう思って、陽介は手を握りしめて声をかけた。

「藍!」

 一度振り向いた藍は、けれど声を返すことなく生徒の波にまぎれてしまう。



「うわ。避けられてるって本当だったんだ」

 初めてその場面を目にした諒が小さくうめいた。

「うん……」

 陽介は小さく返す。

 陽介の気持ちに答えられないならそれでも仕方ない。あの夜、藍の気持ちも確かめずに勝手にキスしたことを怒っているなら謝りたい。嫌いになったのなら嫌いだと、はっきり藍の口から聞くまでは、陽介の気持ちはいつまでたっても晴れなかった。