「っしょ、と」

 掛け声をかけて、陽介は肩から重い荷物を下ろして大きく伸びをした。

 バッグに入っている荷物は、十数キロにも及ぶ。ずっと自転車をこぎ続けてここまで登ってきた肩が、ようやく楽になった。

 吐いた息が白い。

 防寒はできる限りしてきたが、それでもきんとした空気はしんしんと体にしみこんでくる。まだ10月だけれど、今年は冬が早い。

「よしっ。今夜はよく晴れた!」

 そんな寒さを吹き飛ばすように、陽介はわざと大声で言って空をあおいだ。

 月のない晩秋の澄んだ空には、満天の星が輝いている。

 右手の方から街の光が溢れているのが気になるが、今日の目的を考えたら高台に上る必要があったのである程度は仕方がない。

 そこは、広い霊園にある四阿だった。
 ぐるりと見まわせば、目に入るのは山の斜面に一面に広がる墓石の群れ。まだこの世ならざるものを見たことはないが、いてもおかしくないだけの雰囲気がある場所だ。

 陽介は気をとりなおしてバッグを開けると、中にあった望遠鏡を丁寧に組み立て始めた。バイト代をためてやっと手に入れた新品の屈折式望遠鏡だ。家で何度か出してはみたが、星を見るのは今夜が初めてだ。

 これで最初に何を見るか、陽介はずっと決めていた。