(魔法図書館、古書探索のアルバイト募集……)


 いくら辺境の地と呼ばれていても、人が暮らしていないわけじゃない。

 むしろ辺境の地シュテアは、その昔は栄えた都市……都市……都市……。


「……………」

 
 列車から降り、駅を出る。

 まだ、ただそれだけの動作しか行っていないはずなのに……。


「…………森!」


 シュテアが栄えていたのは何百年前なのかと想像もつかないくらい自然豊か……いえ、どこをどう歩けば目的の場所に辿り着くのか分からないくらい巨大な森が私を出迎えた。


「…………」


 別に、森に入ることが怖いわけではない。

 自分を自衛できるくらいの魔法は使える。

 何が怖いかって言ったら、森の中で迷子になって野垂れ死んでしまうこと。


(私は攻撃系の魔法を使うことしかできないから……)


 一国の姫が攻撃魔法しか使うことができないなんて野蛮以外の何物でもない。

 そんな私の将来を危惧して、私が攻撃魔法の使い手だということは1部の人間にしか知られていない。

 その1部の人間こそ、幼い私の面倒を見てくれた魔法使い様。


(でも……)


 攻撃するための魔法を暴走させずに生きてこられたのも、攻撃魔法で自分の身を守れるようになったのも、万が一外に出た際に呪いが発動して眠ってしまったときになんとかできるようになったのも、すべては国に仕えていた魔法使い様のおかげ。


(お金が欲しい!)

 
 彼に会いに行くという決意を思い出した私は、あんなにも躊躇いのあった森の中にいとも簡単に踏み入ることができた。

 恋する乙女の力というのは、どうやら本当にすごいらしい。


(でも……そもそも、この森の中に魔法図書館が存在するのかな……)


 小さい頃の私に、多くの夢や希望を与えてくれた魔法図書館。

 魔法使い様に連れて行ってもらった魔法図書館は大都市の一角にある高級感溢れるような場所だったけれど、足を踏み入れた森の出口で待つものは恐らく大都市ではないことだけは分かる気がする。


(街や村にも、魔法図書館はあると聞きますからね……!)


 きっと、辺境の地にだって魔法図書館は存在する。

 いつか魔法は滅びゆくものだとしても、いつか私にかけられた呪いは解けていくものだとしても、今日も魔法という未知で不思議な力は現役として大活躍中。

 森を抜けたその先に待っているものは、魔法図書館だってことを信じたい。


「急ぎましょう!」


 いくら魔法が現役で活躍しているといっても、私たちは時間の流れに逆らための魔法を知らない。

 大昔の人たちが使っていたような強大な魔法を、ほとんどの人たちが使うことができなくなった現代。

 できることは限られているけれど、私は絶対に図書館の管理人さんの役に立ってみせる。


「すべてはお金を稼ぐために!」


 管理人さん。

 管理人さん。

 まだ見ぬ管理人さん。

 管理人さんは、私のことを気に入ってくださいますか?