「お客様、お客様」

「ん……」


 元婚約者のセレストル様と2人きりの時間を過ごしていると、セレストル様は私が外で生きていく際に困らないように知識を授けてくれた。

 従者の方やセレストル様の側近の方は、姫としての身分を失う私のために多くの知恵を授けてくれた。


「終着駅ですよ」


 自分が暮らしていた城では、両親に心配をかけないように一国の姫としての振る舞いを心掛けてきた。

 お兄様やお姉様たちには外交の面を始め、私が国外に逃亡するための根回しをしてくださった。


「あ……申し訳ございませんでした!」


 婚約破棄と国外追放という名の家出に協力してくれる人たちがいたおかげで、私は目的の地に辿り着くまでの列車に乗車することができた。

 一般人らしい立ち振る舞いはもちろんのこと、切符を購入するところや必要な買い物以外はしないところとか、いろんなことを完璧にこなしてきたつもりだった。


「いえいえ、良い旅を」

「ありがとうございました……」


 けれど、自分にかけられた呪いである《《睡魔》》には打ち勝つことができなかった。

(魔法使い様……私にかけられた呪いは、まだ解けないみたいです……)
 

 そんな風に自分へ言い聞かせながら、私は初めて自分1人で乗車することができた列車に深々とお辞儀をした。

 車掌さんが柔らかい笑みで私を見送ってくれて、今日は素敵な1日になるような予感がしてしまう。


(笑顔、笑顔……)


 笑顔が持つ力の効果に気づかされた私は、自然な笑みを浮かべることができるように頬をぺちぺちと叩いてみる。


(それにしても、夢の中で魔法使い様にお会いできるなんて……)


 夢というよりは、過去の回想でしかないけれど。

 それでも、久しぶりに大好きな想い人と言葉を交わし合うことができたという事実は私の心を元気づけてくれる。

 
(必ず会いに行きますね、魔法使い様!)


 ほんの少しのお小遣い程度は持たせてもらえたものの、ここから先は魔法使い様に会いに行くための資金を自分で稼いでいかなければいけない。