「もしも……」

「魔法使い様?」

「もしも、僕が国の役に立たなくなる日が来たら……」


 魔法司書さんがやってくれたように、魔法使い様は私の頭を優しく……とても優しく撫でてくれた。


「そのときは……名前で呼んでもいいよ」

「……魔法使い様の名前?」

「言っておくけど! 魔法使いって名前じゃないから!」


 魔法図書館の中に、鮮やかな橙色の夕陽が差し込んでくる。

 どんなに眩しい光が入り込んだとしても、魔法図書館の本たちは陽の光に焼けることがない。


「名前……教えてくれるんですか……?」

「……そのときが来たら」

「名前……魔法使い様の名前……」


 涙の止め方が分からなくなるほど悲しい事実を聞かされたばかりなのに、私の涙腺は泣くという動作を忘れてしまった。

 恋心を抱き続けていた、魔法使い様の名前を知ることができる。

 喜びが悲しみに勝ったことで、私の顔は自然と綻んでいったと思う。


「そんなに喜ばないでほしいんだけど……」

「だって、魔法使い様の名前を知ることができるんですよ」

「その日が来たら、僕が国から追放されるってことになるんだけど……」

「え、それは駄目です!」


 結局私は、魔法使い様が国から追放される日がやって来ても彼の名前を知ることができなかった。教えてくれなかったとも言える。教えるための時間がなかったとも言える。

 理由はどうであれ、私は魔法使い様の名を知る前に魔法使い様と別れてしまった。