「リザベッド」

「お姉様……」


 セレストル様には防御魔法を施し、国際問題に発展しないようにセレストル様や両親以外の家族にはきちんと根回しした上での婚約破棄劇場が開幕した。


「元気で」

「……ありがとうございます」


 これが、本気の芝居だということがばれないように。

 これが、リザベッドの本気だということがばれないように。

 みんながみんな、リザベッドを愛していたからこそ彼女に協力をした。


「リザベッド・クレマリー」

「魔法を制御できずに、申し訳ございませんでした」

 
 すべては、国外追放された魔法使いに会いに行くために。


「君との婚約を破棄させてもらう」


 眠り姫となった彼女には、常に誰かが傍にいなければいけなかった。

 その、傍にいてくれた相手こそが、姫に呪いをかけた魔法使いの少年だった。


「そして、私を負傷させた罪も背負ってもらう」


 リザベッドは、魔法使いの少年に恋をした。


「どんな罰もお受けいたします」


 初恋を成就させたいとか、そういうことではない。

 ただ、国を追い出された魔法使いの安否を確認したい。

 ただそれだけのことで、彼女は行動を起こした。


「無事を祈っている、リザベッド」

「セレストル様……」


 これは、誰からも祝福された婚約だった。

 これは、誰もが王子とリザベッドの幸せを願っての婚約だった。


「君を辺境の地シュテアへ追放する」

 
 けれど、今日をもって婚約は破棄された。

 国の大切な姫君であったリザベッドは、国外へと追放された。