「リザにできることは、未来を心配する事じゃない」

「…………」

「リザにできることは、授けられた魔法を育てて開花させていくこと」

「…………」


 この相続の件が、どう巡り巡って僕の元へやって来たのかを尋ねる手段は存在せず。

 すべてが今日の日を迎えるために仕組まれたことだとしたら、リザのご家族には一生感謝してもしきれない。


「昔……私に教えを授けてくれた魔法使い様と同じ教えですね」


 桜を思い起こすような淡い桃色の髪に合わせたカーディガンと、フリルが数段飾られたスカートを着こなしているリザ。

 着こなし方もそうだけれど、人を満足させるだけの料理ができるようになったこと。

 すべてが一般人として生きるために頑張った努力の成果だと思うと、本気で言葉というものをなくしそうになる。


「……魔法使いは、みんな似たり寄ったりのことを言うのかもしれない」

「なるほど……」


 ここだったような気もする。

 自分の正体を明かすなら、ここのタイミングだったんじゃないかなーと思わなくもない。

 けれど、大切な姫君の人生を預かることになったのかと思うと、そう簡単に両想いになれないなって意気地なしの自分が現れる。


「リザ」


 それでも、リザの笑顔を見続けていくにはどうしたらいいかってことは常に考えている。真剣に。大真面目に。

 大好きな想い人を、どうやったら幸せにできるかってことを常に考えている。


「箒で空を飛んでみようか」


 祖母が亡くなったあとの魔法図書館は、死を迎えた。

 魔法図書館に携わらない人からすれば、本が死ぬって表現をするだけで笑いものになってしまうかもしれない。

 でも、魔法図書館を管理する者が亡くなると、魔法図書館自体の命も一緒に亡くなってしまう。

 管理人の死は、本の死を意味する。