「んー……」


 腕の中で、なんとか寝返りを打とうとする彼女は何者か。

 この少女がリザベットだとしたら、急激に愛おしさがこみ上げてくる。

 もちろんリザではない可能性もあるけれど、自分の予感が当たっているような気がしてしまう。


「落ち着け……落ち着け……落ち着け……」


 これがリザだとしたら、安らかな眠りに陥るリザの表情を直視できないくらい恥ずかしい。

 自分の腕に甘えるように接してくるリザを拝める日が来るなんて、幼い日のどこの誰が想像したことか。

 
(っていうか、なんでこんなところに……)


 自分がかけた呪いが原因で、彼女が深い眠りの世界へ誘われてしまっている。

 そこまではなんとなく察することができるけれど、隣国の王子と婚約するはずの彼女がどうして辺境の地にいるのか分からない。


(やっぱり……この子は、リザじゃない……)


 幼い頃の自分が、何を犯したか。

 それはやっぱり、忘れてはいけないこと。

 卒業なんて言葉が浮かんだ自分がおこがましくて、彼女を腕の中ではなくベッドで休ませようと思った。


「はぁ……」


 彼女を抱きかかえようとしたとき、彼女の手に封筒のような物が握られていることに気づいた。


(辺境の地シュテアの魔法図書館に勤務されている魔法司書様……)


 封筒らしきものに書かれている字を読み取ると、それは恐らく自分宛と思われる長い長い宛名が記されていた。


(読んでも大丈夫……)


 辺境の地シュテアの魔法図書館に勤務されている魔法司書様。

 それは、自分以外に存在しない。

 まあ、先代の魔法司書宛てという可能性がないわけではないけれど、とりあえず自分宛の手紙だと判断した僕は彼女の手から封筒を抜き取った。