結夏が僕を気に入ってる?
「どういうこと?」
僕がそうつぶやいても、山本さんは何も答えず、話を続けた。
「はっしーってさ、結夏と仲いいの?」
「……どうなんだろう」
「えー、何その返事は」
「と言われてもね。そもそも水野さんと話すようになったきっかけがきっかけだから」
「きっかけ?」
「うん。彼女に弱みを握られてるっていうか」
「弱み? まさか、脅されたってこと?」
「まあ、そんな感じ。『秘密をバラされたくなかったら友達になって』って言われてさ。以来、そういう関係」
「……なにそれ、予想外すぎる」
「別に、言いふらされたって痛くも痒くもないことなんだけどね」
「どんな内容?」
「雑貨屋で可愛い小物――黒猫のブックスタンドを買ったところを見られた」
「は?」
「だからさ、それが脅しになるのかなって思って」
山本さんは少し呆れたような顔で、すぐに吹き出した。
「なるわけないじゃん。でも……あー、うん、たしかに結夏なら言いそう」
「君、察し良すぎない?」
「へへん。だてに長いこと、結夏の友達やってるわけじゃないからね」
彼女はなぜか少し誇らしげだった。それから何かに思い当たったように、ぽつりとつぶやく。
「……ってことは、はっしーは結夏と自主的に仲良くしてるってことだよね?」
「さあ、どうだろうね」
「ごまかした!」
「それより、君は水野さんの親友なの?」
僕が逆に訊き返すと、山本さんはバツが悪そうに肩をすくめた。
「胸を張ってそう言いたいとこなんだけどね。実は――あたし、結夏と話すようになって、まだ1ヶ月くらい」
「え、1ヶ月って……クラス替えからじゃないか」
「そ。だからこそ納得いかないことがあるんだよ」
「納得いかない?」
「うん。あの子ってさ、影が薄いっていうか、なんか浮いてるんだよね」
「影が薄い? 水野さんってそんなタイプなの?」
僕の知らないところで、うちのクラスは奇人変人の集まりだったのか。山本さんもわりとそのカテゴリな気がしてきた。
でも、彼女は思い切り首を横に振った。
「まっさか! 普通なら、結夏ってめちゃくちゃ目立つよ。あの見た目に、あの性格だよ?」
「……鼻息荒いね」
「失礼。でもさ、最近はっしーと話してるのとか、この前ふたりでどこかに行ってたのとか、普通ならもっと噂になるはずでしょ。なのに、クラスの女子も男子も、結夏の話にまるで興味ないの。不自然すぎるって思わない?」
「そうかな」
「そうなのっ!」


