「初めの頃だけだったんです。気を失うとか、そういうことは」

「たしかここに転校してくるまでは、地方に住んでいたおばあさんと一緒に暮らしていたって言ってたな。まさかそれは……」

「はい、そうです。とても日常生活ができる状態ではなかったので、中学二年の途中から祖母の家でお世話になっていました。祖母と暮らし初めてからは、少しずつですが倒れることもなくなったんです」

「……なるほど、そういうことだったのか」


 私の話を静かに聞いていた友林先生は、思案に暮れたようにまぶたを半分ほど伏せる。
 
 思えば転校前に初めて友林先生と会ったとき、私がPTSDと話しても最初から通じていたし、理解ある様子だった。

 まったく縁のない人には「PTSD」という名前を聞いても、なんのことか見当がつかない場合が多いのに。
 でも、今はそこまで珍しいことでもないのかもしれない。最近では医療ドラマとかドキュメンタリーでも取り上げられたりすることもあるようだから。


 そんなことを考えていれば、友林先生が手に持っていたご当地ゆるキャラペンを置いて、再び私のほうを見上げた。


「うん、わかった。教えてくれてありがとうな」
「いいえ、こちらこそ」
「あ、それと他になにか学校側で普段から注意するべきこととか、新しく把握しておいたほうがいいことはあるか?」


 尋ねられた私は、首を横に振った。


「いいえ、特にありません。ほかの生徒と同じように扱ってください。ただ、雨が降ったときだけは……」


 ほかの生徒と同等にと言ったそばからそう付け加えるのがなんだか躊躇われてしまって、語尾が頼りなくなってしまう。
 けれど友林先生は優しげな笑顔を私に向けて、


「雨のときは、無理をしないようにな」

 あたたかい言葉を送ってくれた。