「失礼って、思わなくてもいいと思う。」

「え......?」

「確かに、コンテストに応募して落ちた人たちはすっごく、悔しい。」

少しだけ、晴樹君の表情が曇る。
ちがう、そんな顔をさせたいんじゃない。

「でも、晴樹君の小説は本当に圧倒された。すごかった。悔しいって思いなんてなくなるくらいに。だから、失礼って思わらる方が嫌、かも。」

「......。そっか、失礼って思う方が失礼なのか。」

納得したような表情で顔を上げる晴樹君の視線と私の視線がぶつかる。
さっきまで怖いと思っていた真っ黒な瞳。
吸い込まれそうで、びくびくしてしまっていたけど、今ならまっすぐに見れる。

「私、晴樹君が書く文章好きだよ。新作は一番最初に読みたいって思うくらい、好きだよ」

「それは告白ってとらえてもいいの?」

いじわるそうな声をして、面白いものを見るような目で、身長の低い私に目線を合わせる。

私、今すごく誤解を招くことを言った気がする。

「あの、ち、違くって、ああえっと違くはないんだけど、えっと。」

「大丈夫、分かってるよ。からかってみただけ。」

「は、晴樹君!!私すっごい焦ったよ!」

こんな短時間しか話していないけれど、晴樹君が笑ってくれてよかったなって思う。
最初会ったときは苦しそうだったから。
笑ってくれて、本当に、嬉しい。

「それよりさ、さっき『コンテストに応募して落ちた人は悔しい』って言ってたけど、紫波さんも小説書くの?」

「......。書くよ。ずっと、書き続けてる。」

正直、言おうか迷った。
だけど言いたかった。
晴樹君だから。

晴樹君の小説がひたすらに好きだから。
ただただ、好きだから。
ずっと読んでいたい、というのは嘘ではない。

読んでほしかった、誰かに。
私の書いた小説を。
私の書いた小説で、誰かを笑顔にしたかった。
ただそれだけだった。
ただ、それだけだった。