ぼくがみなづきです。
僕がミナヅキです。
僕が水無月です。
僕が、水無月です。
理解しきれていない言葉が、頭の中を高速で駆け巡る。
今私はどんな顔をしているんだろう。
想像はできないけど、とんでもない顔をしているんだと思う。
だって、晴樹君が笑っているから。
「一人で百面相でもしてるの?すごい表情変わってる」
「だって、晴樹君が水無月って、え、あ、ん?」
ころころと笑い声が響く。
さっきまでの表情とは全く違っていて、何度も言うけれど本当に同一人物か疑いたくなる。
何よりも恥ずかしいのは、作者本人に私の自分勝手な感想を言ってしまったこと。
本当に恥ずかしい。
ただただ恥ずかしい。
頬に熱が集まってくるのがわかる。
いたたまれなくて、本の入ったビニール袋を握った。
「まぁ、突然言われてびっくりするのは当たり前だよね。あ、あと、紫波さんの感想、嬉しかった。」
「ご、ごめんなさい、自分勝手なことばかり言ってしまったて。」
「僕が言ってっていったんだし。嬉しかったからいいんじゃない?」
すべてが吹っ切れたような優しい表情。
水無月さんってこんな風に笑うんだ。
私とは、全然違う。
「それにしても、どうして自分の本を自分で捨てようと......?」
「あー......。この本、完全に自己満足だったから。自己満足で書いた本を自己満足でコンテストに出してみたら大賞受賞させてもらっちゃって。なんか、このコンテストに応募した人に失礼だなって思っちゃってさ。」
その、『コンテストに応募した人』の中には私も含まれている。
確かに、一次審査も通らなくて本当に悔しかった。
正直大賞受賞者を少しだけ、恨んでしまった時もあった。
でも、そんな思いを吹き飛ばすくらいに『少年の終末。』は圧倒的だった。
本当に、本当に。
すごいの一言でしか表すことができなかった。
それくらいに、圧倒された。
実感させられた。この人は天才で、私は凡人だって。
小説で生きていける人は、本当に本物の天才で。
私じゃないって。