「へ......?」
「この小説、僕にとっては面白くないんだ。紫波さんは、何処が面白いの」
「あ、え、っと」
予想していなかった答えに脳が付いていかない。
面白いところを上げていったら山ほどある。
すべてが、面白くて、尊敬だから。
「あっち、屋根ある方行こう。ここ暑い。」
「あ、うん」
二人で並んで屋根の下のベンチへ行く。
手には同じ小説。
周りの人は、私たちを初対面だと思わないだろう。
「屋根の下、初めて来た」
ポロリと彼からこぼれた言葉。
少しだけ驚く。本を読むにはうってつけのところだから。
「あの、向こうの端の方、涼しくて読書しやすいですよ......?」
「ふーん、じゃあそこ行こ。」
二人の間に再び流れる沈黙。
聞こえるのは周囲の騒音。それから二人分の足音。
芝生を踏む音が私の持つ青いビニール袋の音が重なる。
永遠のような沈黙が終わって二人同時にベンチに座る。
真っ黒の瞳が、私をしっかりととらえた。
「僕、晴樹 棗。で、その小説のどこが面白いの」
「えっと、」
どうしよう
本当のことを言って不快にさせてしまったらどうしよう。
思ってたことが間違いだったらどうしよう。
話すのに時間がかかったらどうしよう。
面倒くさいなって思われてたらどうしよう。
どうしよう、どうしよう、どうしよう。
混乱が私の頭を駆け巡る。
言葉が口から出てこない。
「あのさぁ、何を気にしてるか知らないけど。」
呆れたような声で、晴樹くんが話し出す。
とっさに小さく「ごめんなさい」と声が出る。
「別に、怒ってないし。第一、僕が紫波さんの感想を聞きたくて聞いてるんだからさ。言いたいこと言ってよ。」