書店を出ると、夏の空気が私にまとわりついた。
彼が向かったのは、私も頻繁に行く大きめの公園。
この町で唯一書店以外で行き方を知っている場所。
大きな屋根の下に置いてあるベンチで本を読むことが好きで、よく来ている。

孤独な背中を持つ彼は、大きな屋根を素通りして日の当たる草原のほうに歩き、斜面に腰を下ろした。

さすがに、隣に行って同じ本を読むのは気が引ける。
定位置である大きな屋根の下のベンチに腰掛け、私は青いビニール袋から本を取り出した。

ゆっくり、丁寧に本を開く。

『少年の終末。  水無月』

最初のページを開くと私の目に入ってくるシンプルな文字の羅列。
9文字のそれは、私をこの本に引き込むには十分な文字の量だった。

闘病中の少年の日記形式になって進んでいく物語。
それは恐ろしくリアルだった。まるで、作者自身が現在進行形で体験しているようだ。
どこか冷たくて、硬くて、でも脆くて、儚くて。

ページをめくる手を止めることができない。
ずっと読んでいたい。この物語を終わらせたくない。このページが永遠になればいいのに。
そんなことを考えるが、一向にページをめくるペースは遅くなることはない。

もうすぐ終盤。
そこでまさかのどんでん返し。

この物語は、永遠だった。

永遠に終わることのない、少年の終末。
最後のページまで読み進めて気が付いたのだ。この物語は一生始まりをくりかえす。
それが少年の願いであり、遺書。


なぜ、こんな小説を生み出せるのだろう。
どうして、私にこんなアイディアを思いつく思考がないのだろう。

結局最後は自己嫌悪。
なぜ私にできないんだろう、何が足りないんだろう。
見つけることができなくて書き続けることしかできない。

私はこういう人間だと自分に言い聞かせてひたすらに書く。