手紙が、涙でにじむ。
まるいしみが生まれる。
本当に、ずるい人だ。
私を最期まで変えようとするんだから。
二つの小説と手紙を抱きしめて、自室に戻りまずカーテンを開ける。
それからパソコンを立ち上げる。
今から書く小説は、晴樹君のためであって、私自身のためのものだ。
いつも使っていた小説サイトを開いて久しぶりにログインする。
ふと、家でないところで書こうと思い立ち、いつもより大きいバックにパソコンと、財布と定期。
それから晴樹君からもらった三つを入れて。
最寄り駅のコンビニでペットボトルの水を買って、電車に乗り込む。
目指す場所は、初めて出会った公園。
はじめて二人で座った席に今日は一人で。
パソコンに文字を打ち始める。
題名は『明日の君に再啓をそえて』。
どうしても書けなかった再啓の文字を、パソコンに打ち込む。
もう、晴樹君はいない。
この世にはいない、逢えない。名前を呼べない。
本当に悲しくて、寂しくて、ただ辛い。
だけど、歩いていくしかない、進むしかない。
少年が永遠に物語を繰り返すように。
少女が行動をしたように。
私も、明日に向かって進まなくてはいけない。
私よりももっと先の世界にいる君に追いつくために。
棗君、と胸を張って名前を呼べるように、名前を読んでもらえるように。
好きだよって伝えられるように。
私は小説を書き続ける。
誰かのために、私のために。
いつか、晴樹君に逢えた時に胸を張って小説を書き続けたといえるように。
晴樹君への思いを、パソコンにつづっていく。
書籍化とか、有名になるとか、誰かをすくうとか。
そうじゃなくて、私は私らしく、私のための小説を書くんだ。
遠い空を見上げる。
気づくと、もう季節は変わっていた。
大きく息を吸いこんで、ゆっくりと吐き出す。
少しだけ息がしやすくなった気がした。