「初めまして、紫波 紡です。」

少しだけ視線をそらして女の人に話しかける。
その人は驚いたように目を見開いて。
おぼつかない足取りで私のほうに歩いてきて、私を抱きしめる。

「紡ちゃん、ありがとう、本当に、ありがとう。棗、楽しそうだった」

「ごめんなさい、私、晴樹君と喧嘩したままになっちゃって......。私が悪かったのに、謝れなくて。もう、逢えないのにっ......。」

昨日枯れ果てたはずの涙がぼろぼろとまたこぼれる。
いいんだよ、ありがとうね。と言いながら、晴樹君のお母さんはしばらくの間抱きしめてくれていた。

「紡ちゃん、棗の顔、見ていかない?おだやかに、笑ってるの。」

はい、と小さくつぶやいて晴樹君が眠る場所へと足を運ばせる。
顔の部分にある小さな扉を開くと、色とりどりの花に囲まれた晴樹君が姿を現した。
その表情は本当に穏やかで、優しくて。
孤独なんて一つもなかった。
本当に、ずるいくらいにやさしく笑っているんだ。

「晴樹君、はるきくん、棗、くん......。おいていかないで、ひとりでどこいくの......。」

触れた頬は冷たくて、硬くて。
その冷たい体温が晴樹君がこの世にいないことを証明しているようで。
悲しくて。

その場に崩れ落ちて、ぼろぼろと泣く。
晴樹君のお母さんのほうが、辛いはずなのに。

「ごめんなさい、私なんかが、泣いていいわけないのに......。」

「泣いてもいいの、悲しみは人によって違うんだから。」


知らないうちに葬式が始まって。知らないうちに葬式が終わって。
ずっと下を向いて、唇をかんで。
スカートに沢山の涙の跡を作って。
そのスカートの上で、手をぎゅっと握って。
自分でもよくわからない気持ちをぐるぐるとかきまぜた頭を整理しようとしてもできなくて。

気づいたら母が迎えに来ていて、連れて帰ってもらって。
家についても制服のままベットでひたすら泣く、泣く、泣く。