『少年の終末。』の少年は晴樹君で、自分を満たすための、自分のための物語だったとしたら。
少年は終わらない物語を永遠に繰り返す。
晴樹君は、少年に願いを託した。
「ああ、そうだよ。」
そうだ、そうだ。
それが、私と晴樹君の違い。
何のために、誰もために書いてるのか。
フォーカスの対象。
不特定多数の『誰か』に向けて書く私と、たった一人の自分のために書いていた晴樹君。
あの圧倒の正体は、それだった。
教えてくれていたのに。
口に出して、声に出してくれたのに。
私は勝手に突き放して。
何も行動できないままに、時間だけが過ぎて行って。
取り返しのできないところまで来て。
結局変わっていないじゃないか、いつまでも、弱虫なまま。
あふれだす涙で視界がゆがむ。
ゆがんで、解けて、ゆがんで、解けて。
頬を伝う涙は何時まで経っても止まらない。
あふれてあふれて、あふれて。
声にならない声がのどから涙と一緒に零れ落ちる。
謝りたかった、謝れなかった。
もっと話したかった、話せなかった。
もっと読みたかった、読めなかった。
もっと読んでほしかった、読んでもらえなかった。
声を、聴きたかった。
孤独の正体に、もっと早く気づけていたのなら。
こんなに泣くことはなかったのか。
こんなに後悔することはなかったのだろうか。
こんなに、痛くはなかったのだろうか。
いたい、つらい、くるしい、さびしい、いやだ。
会いたい。
もう一度、逢いたい。
葬式は明日の午前。
久しぶりに制服をクローゼットから引っ張り出す。
通信制でほとんど着ないのに、なぜか買わされた制服。
深い藍色のブレザーと紅のリボン。
紺色のチェックが入った細かいプリーツスカート。
泣きながらアイロンをかけて。
泣きながらハンガーにかけて。
泣きながら階段を下りて、泣きながら母親に事情を説明する。
母が言ったのは一言だけ。
「後悔しないように。」
私は母の瞳を見つめてしっかりとうなずいた。