写真フォルダには晴樹君の思い出であふれかえっていた。
書店に行った写真、大きな花畑に行った写真、水族館に行った写真。

二週間分の思い出が、このフォルダに詰まっている。
嬉しくって、画面をずっと眺める。
キラキラと輝く思い出の数々は、今まで持っていないものだった。

ずっと昼夜逆転生活を送って、配信されている授業を録画で真夜中に見て、ひたすら小説を書いて。
そんな生活を送っていた私が晴樹君と会うために朝起きるようになって、授業をリアルタイムで見て。
いつの間にか、規則正しい生活を送るようになっていた。

ブーブーとスマホが震える。
トークアプリを開くと、晴樹 棗の文字。
『用事があって紫波さんの町にきてるんだけど、会えたりする?』

会いたいと思っていた人からの連絡ほど、嬉しいものはない。

『あいたい、何処にいる?向かう』

『大きいショッピングモールの前の公園』

『今から行くから日陰で待ってて』

今までにない速さで準備をして、鍵を閉める。
ここから晴樹君のいる公園までは徒歩で4,5分。
いつもよりも早く歩いて公園に向かう。

何の用事があったんだろう、この近くに書店があったな、一緒に行こうかな。
なんて考えながら公園に足を踏み入れる。
晴樹君のことしか頭になくて気が付かなかった。

前から来ていた数人の同級生。

「あれ、紫波?こんな時間に何してんの、サボり?不良じゃん」

「まだ小説書いてたりするの?あんなつまんないのやめちまえよ。どうせ才能なんてないんだろ?意味ないって。」

「なんて題名だっけ、『箱庭の眠り姫』だっけ。そんなくだらないことやめて、勉強に専念したらどうですかぁ?」

何も言い返せなくて下を向く。
本当は今すぐにでも晴樹君のほうに行きたかった。
だけど、行かなかった、いけなかった。

今行ったら、晴樹君に迷惑がかかるから。

中学の頃の同級生からの罵倒の言葉の数々。
慣れてる、慣れているから。
いつも言われてきた。
変だって、気持ち悪いって。

何かを言われているのはわかる、何を言われているかはわからない。
下を向いて、じっと耐えて。
そうしたら、きっと終わるから。
中学の時だってそうだったんだから。
大丈夫、私は大丈夫。