次の小説はこれにしようかな。
この間思いついた晴樹君をイメージした小説と今思いついた小説のイメージを合体させて。
さっきまでふわふわと宙を漂っていたイメージが一つになる。

これを書きたい。
ただただ書きたい。
この小説で、誰かの力になりたい。

構成を練りながら初めて話した公園の大きな屋根の下へ行く。
晴樹君はまだ来ていなかったから、『ついたよ、前回と同じところにいる』とだけ連絡をしてスマホのメモを開くと、そこには過去に書いていたプロットが山のように眠っていた。
新しいメモを作成し、さっき思いついたことをひたすら書き出す。

順序関係なく、ひたすら打ち込んでいく。
平日の昼間、公園の遊具のほうに小さな子供はいるけれど、屋根の下には私だけ。
スマホに文字を打ち込む音がカチカチ、カチカチと響く。

主人公は孤独を抱えた少年。
始まりは駅のホーム、待ち合わせの相手が来なかった場面から始まる。
あまりにも来ない彼女を心配し、ホームへ出てみるとそこは全く知らない世界。
厳密には知ってはいるけれど、こんなに人がいない町は知らない。

誰もいない町でただ一人取り残された少年が本当の幸せを探す。

うん、いい。
いい小説が書けそうだ。

満足してふっと顔を上げると、にやにやと笑う晴樹君。
頬杖をついてこちらを見ている、いじわるそうな顔をして。

「それ、面白そうだね。できたら見せてよ。というか、ネットとかにないの?紫波さんの小説。この間のコンテスト、ネット応募のみでしょ?僕も僕の小説を見せるんだから、紫波さんも見せて。」

確かにそうだ、私だけが晴樹君の小説を読むのは何というか、不公平だ。
正直、読んでほしくない。晴樹君の小説のほうが圧倒的にすごいから、レベルが違うから。

だけど、そんな子犬のような目で見られたら、断るにも断れないじゃないか。

「わ、っかった......。」

しぶしぶうなづくと、晴樹君は大げさにガッツポーズをする。
私の小説は、ガッツポーズほどの価値はないのになぁと思いながらスマホを操作して晴樹君に差し出す。
するとしばらくしてから、晴樹君の新作短編の画面が映った晴樹君のスマホが私の手に渡ってきた。

「よし、読み終わったらお互いの感想言お。終わったら声かけて。」

そうして私たちはお互いの作品に没頭し始めた。