『今日会わない?』

なんて連絡が来たのは、初めましての日から一週間たったころ。
どうやら、新しい小説が書けたらしい。
どうしても読みたくて、時間と場所を決めて支度を始めた。

今回のはどんな小説だろう。
この間みたいな日記のような小説なのか。それとも、全然書き方の違う小説なのか。
楽しみで楽しみで仕方がない。

いつもなら気分が乗らなくて夜中に見る動画授業と配布されていた課題を午前中に終わらせ、会う準備をする。
晴樹君と話してから、母親に『紡、なんだかうれしそうね。』なんて言われた。

自覚していなかったけれど、かなり嬉しいのかもしれない。
はじめて、自分の思っていることを言えた人だから。
私を少しだけ、ほんの少しだけ変えてくれた大切な人。
口元から自然と笑みがこぼれる。

水色のブラウスと深い藍色のロングスカート。
一年中長袖長ズボンの私にとって、七分丈のブラウスを着るのは本当に久しぶりだった。
あれもこれも、晴樹君のおかげなのかも。

小さい鞄にスマホと財布と定期。それから『少年の終末。』をうまく詰め込む。
駅のコンビニで飲み物を買っていこうと考え、ペットボトルが入るくらいの隙間は空けておいた。
私にしては珍しくしっかりと昼食を取って、といってもコーンフレークだけれど、鍵を閉めて暑い外へと足を踏み出した。

駅までの道のり。
私はただひたすら『少年の終末。』について考える。
あのページのあの文、どうしたら思いつくのか。
あの結末にしたのはなんでか。
聞きたいことは山ほどある。

ずっと考え事をしていたせいだろう、気が付くと駅のホームにいた。
アナウンスが流れ、目の前に電車が止まる。

時間も時間だ。
平日の真昼間に電車を利用する人は多いとは言えない。
それに、私の住んでいる地域はあまり人がいないからいつもすいている電車がさらにすいているように感じる。

電車の中の電光掲示板をずっと眺める。
あと二駅、あと一駅。

終点の梅が丘駅で電車から降りると、周りには誰もいない。
私だけがとり残された駅のホーム。