「ねぇ、紫波さん、よかったらまた会おうよ。紫波さんと小説の話がしたい。楽しかったから。紫波さんに読んでもらいたい」

「私でいいなら、是非......!いつでも空いてるから!」

「じゃあさ、連絡先交換しよう。」

スマホをとりだして、黄緑色のトークアプリをタップする。
お互いの連絡先を登録すると、友達の数が一つ増えた。
家族しか登録していなかった私にとって、友達の数が増えるのは奇跡みたいなものだった。

数字の変わった画面を見つめて、少し笑う。
嬉しかった。

「じゃあ、また連絡する。それまでに小説なるべく進めてくるから、読んで。」

「うん、読みたい。水無月じゃなくて、晴樹君の小説が読みたい。たのしみに、してる。」

「ありがとう」

あわよくば、紫波さんの小説も、ね。なんて言って晴樹君は公園を出て行った。
書店で会った時の孤独感は少しだけ、薄れているような気もするけれどどこか寂しそうな背中。
気にしないふりなんかできなくて、見えなくなっていく背中をただひたすら、ずっと見つめていた。

晴樹君の孤独の背中への心配をかき消したくて、私はもう一度『少年の終末。』を開く。
やっぱりすごい、何度読んでも面白い。

次会う時までにもっと読み込んでおこうと決意する。
それで、晴樹君に私の思いを伝えるんだ。

小説も、少しだけ、進めようかなと思う。
なんとなく、ふわっとした構成が浮かんだから。

自分の思いを小説でしか表現することができなかった私にとって、人に意思を伝えられるようになったのは大きな進歩。
これもすべて、水無月であり晴樹君のおかげ。

ハードカバーの本を閉じて、屋根の下からでるとじりじりと焼けつくような日差し。
駅までの何もない道を、小説の内容を考えながら歩く。

そんな時間が、幸せだった。