その夜、昨日とは違って男女別にお部屋を交換して、結花さんと一緒に寝られることになった。
食後にもう一度お風呂で温まってから部屋に戻る。
扉を閉めて鍵をかけると、どちらからともなく、顔を見合わせて笑ってしまった。
「なんだか、修学旅行みたいね」
「いつか、こういうのやってみたかったんです」
結花さんはお部屋のドライヤーで私の髪をブローしたあと、寝る前だからと、櫛でまっすぐに髪をすいてくれた。
「花菜ちゃん……。ごめんね……?」
「えっ、結花さんがなんで謝るんですか?」
「花菜ちゃん、私をお手本にしたいって思ってくれてるって。こんな私でいいの? 花菜ちゃんにはきっと別の理想の大人像があったんじゃないかって思ったの。私なんか、周りから見たらきっと負け組だよ?」
えっ、結花さんが負け組なんて誰が言ってるんだろう。
結花さんは首を横に振った。
「私はね、いつも泣いてばかり。誰かに自慢できるところなんて何もなかったよ。あの当時を思い出しても、陽人さんが私のことをどうして好きになってくれたのか、自分でもわからない。誰かに教えられるものなんて私にはないと思う」
そんなことはない。私にとって結花さんは誰とも代えられない大切な人だから。それと同じものを陽人さんは最初から分かっていたんだよ。
「初めて、二人だけになったときのこと覚えてますか?」
「もちろん。あれは私にとっても大勝負だったなぁ」
「勝負……、ですか?」
「うん。それまで前例がないことで、当時はまだ私も駆け出しだったしね」
ええ? だって、あの頃から小島結花先生の名前は有名だったって……。
「それは茜音先生がね、私のことをどんどん研修に行かせてくれたり、初めてのことにも私の名前を出したりしたから、突然現れた大型新人って感じになっちゃったのよね」
そうだったんだ。私も自分で難しい立ち位置とか状況だって感じていた。書類上の環境と実際の私の置かれている環境は全然違ったと思う。
それなのに、結花さんに戸惑いは全く感じられなかった。
私がお母さんを亡くして、珠実園でお世話になることになった最初の夜、結花さんは私の部屋にひとりで訪ねてきてくれたんだよ。
「一番はじめに珠実園に長谷川先生が先に書類を持ってきてくれて、花菜ちゃんのことをいろいろと聞いていくうちにね、みんなの中に『この子は短期で失敗できない』ってイメージができてしまったの。だから茜音先生も、生活進路指導担当者の名前を最後まで書けないでいたのよ」
そうだったんだ。そうだよね。高校2年生だから、入所するには遅い。中にはお家の都合で中学を出て夜学に通いながら働いている例もあると、職員採用の初期研修でも教わっていたから、当時の私をどう扱ったらよいか迷ったというのも仕方ない話なんだと思う。
結花さんは、ここまで来たらもう他人じゃないからねと笑いながら、珠美園に入所する直前に結花さんが私につくと決まった経緯を話してくれたの。