「栗本君、突然ごめんね。今、大丈夫かな?」

「......。別にいいけど。」

「写真部の活動で、部活動紹介の冊子を作ってて。部活動の撮影許可を部長さんに取ってるところなんだ。栗本君って、吹奏楽部だったよね?部長さんのクラス教えてもらっていい?」

当たり障りないように。気を悪くしないように。

頭をフル回転させて、言葉を選ぶ。

顔色をうかがいながら、一番適当な言葉選びをする。

栗本君の表情は全く動かなかった。

その冷たい瞳で、私を見ているだけ。

表情を崩さずに栗本君を見る。

笑え、笑え、笑え。

全部、笑ってごまかせばいい。

いつもそうやっていたから。


すごく長い時間のように感じた一瞬。

「......。2‐B。」

「ありがとう、ごめんね突然話しかけちゃって。」

「別に。」

少しだけ微笑んで自分の席に戻る。

頑張った、私。

次の昼休みに2‐Bに行って、吹奏楽部の部長に許可撮らないと。

スケジュール帳を取り出して、15の部活動の空いている日程を眺める。

日常活動以外にも休日の活動や大会、文化祭など、いろいろな写真を撮らなくてはならない。

次の土曜日には男子バスケ部、女子バレー部、女子バスケ部の試合が入っている。

男子バスケ部と女子バスケ部はおなじ場所で試合をするから、その時同時に取ればいい。

女子バレー部の試合は午後からだから、バスケ部が終わった後にまっすぐ行けばいいし。

茶道部は活動があまり多くないから、なるべく優先的にいきたいな。

「映優、真剣だねー」

「あ、鈴奈。あと佐藤君。」

「あとってなんだよ、あとって」

佐藤君の言葉を聞き流す。

多分、これが求められている反応だから。

「映優、これ写真部の活動?」

「うん、いろんな部活動を周って、部活動紹介冊子を作るんだ。ほら、入学した時にもらったでしょう?」

クリアファイルから私たちがもらった冊子を取り出す。

鈴奈も佐藤君も、何かわからない様子で冊子を見ていた。

「こんなの、貰ったっけ?」

「んー、俺は覚えてない。」

悲しさが、私を殴った。

大変な思いをして作ってもらったものなのに、印象に残らずに忘れ去られてしまうような。

どんなに大変な思いをしても、見ない人は見ないんだ。

「あはは、そうだよね。覚えてないよね」

笑ってごまかす。

むしろよく覚えてるよねーと顔を合わせる二人。