気のせいじゃない。見ていたんだ。私を、私たちを。

笑っている私たちを、一歩後ろで静かに見つめていた栗本君を思い出す。

何をしているんだろうって言いたそうな瞳でこっちを見ていた。

さっきは思い出すのに時間がかかったのに、思い出してからはあの瞳が頭に、瞼に、私のすべてに。

焼き付いて離れないんだ。

電気をつけても薄暗い廊下には私一人。

たった一人だけ取り残されたみたいだった。みんながいなくなって、私一人。

でも、その方が楽なのかもしれない。私以外誰もいない方が、案外楽なのかも。

誰もいなかったら気を使わなくていいし、空気を読むこともしなくていい。

無理して笑わなくてもいい。


はっと我に返る。

違う。周りのせいじゃない、私がこんな風になったのは私のせいだ、全部、全部私のせい。

私がちゃんと空気を読んで、気を遣わなかった結末。

一番お似合いの結末じゃないか。

あの時、自分の思っていることを言わなければ誰も傷つかずに済んだ。

傷つけたのは私だ。私のせい。

みんなに求められる私で、いつでも笑って過ごしておけば誰も傷つくことなんてないんだ。

選ばれた私で、みんなが求める私で。

そうやって生活することを選んだのも私だ。


薄暗い廊下で立ち止まっていた足を動かす。

ただでさえ掃除で部活に行くのが遅れているのにこんなところで考え事していちゃいけない。

足早に部室へ向かう。

この廊下を通りぬけて渡り廊下を渡った旧校舎に、写真部の部室はある。

写真部といっても、部員が廃部ぎりぎりの人数しかいないし、活動という活動をしているわけではない。

三年生の先輩たちは今月末に行われる高校生の写真コンクールで引退。

二年生の先輩たちは、悪い言い方をすると内申点稼ぎ。

部活に入っていたという肩書が欲しいだけだから、部活にきてもスマホでゲームをしている。

最初の頃は三年生の先輩たちも注意してたみたいだけど、一向にやめる気配がないのであきらめたと聞いている。

「神楽ちゃん!」

後ろから誰かに呼ばれる。驚いて後ろを見ると、部長がこちらに向かって走ってきた。

桃野(とうの)部長、どうしたんですか?」

「活動のことで、伝えておかないといけないことがあって。今大丈夫?」

「はい、大丈夫ですよ。」

部長は部室のほうに目線を移した。中では二年生の先輩たちがスマホの画面を見ながら盛り上がっている様子がうかがえる。

カメラは部室にあるからあとでとってこないといけない。

あの中はいるのはすごく嫌だ、面倒くさいし、気まずい。

『真面目に部活やってますアピール』すんなって視線を送ってくる。

部長が私に視線を合わせた。

「どっかの空き教室、行こうか」

「わかりました」

愛想笑い。ちゃんと笑えてる。