栗本君が口を開いた。私のほうを見ているように感じるのは、きっと自意識過剰なだけ。

同じ班の中で唯一頻繁に話さないクラスメート。

一歩引いて物事を見ていて、いつも冷たい視線を向けているから、目を合わせるのが怖い。

全部見透かしたような視線が私を貫いて、

全部、

全部、

全部、

ばれてしまいそうだから。

「うん、ごめんね、ごみ捨てお願いします。」

いつも道理、表情筋を動かして笑顔を作る。

「ん。」と小さい返事をすると、長い指でごみ箱をもって教室を出て行った。

足音が遠のく。

「もー、映優が後出しするから栗本君がごみ捨て行くことになっちゃったじゃん」

「だから!私!後出ししてない!」

笑い声に包まれる教室。

ホッとする私。

いつも、みんなに笑ってもらえるとホッとする。

私は間違っていなかったって。

正しかったって、思えるから。

私の心の処方箋。

教室にいた担任の先生も笑ってくれる。

大丈夫だ、大人にもばれていない。

大人の目をごまかすのは大変だ。特に先生は私たちをよく知っているから、すごく大変。

それでも先生にばれていないのはそれが普通だから。

私の普通を勘違いしているから。

『いじられキャラで、抜けているところがある女の子』

私の名札。

自分で作り上げた嘘の名札。

薄っぺらくて、はがそうと思えばすぐにはがすことのできる名札。

はがされないのは、それを普通と勘違いしているから。

『嫌われるのが怖くて、いつもびくびくしながら周りの目ばかり気にする映優』

を知らないから。

必死に隠してる、きっとこれが本当の私。

「本当に、映優はいい反応してくれるよね、ついつい楽しくていじっちゃう。」

「あんまりうれしくない。」

「ほめてないんだから、当たり前でしょ」

そう言ってあきれたように笑うクラスメート。
これが、望まれた姿だから。

いいの、自分で選んだ私だから。

みんなが笑っていてくれるなら、それでいい。