「映優、ごみ捨て行きたくないからって、後出ししちゃだめだよー?」
「え、私、後出ししてないよ?」
「もー、ごまかさないの!いっつもじゃんけん負けてるのに、今日だけ勝つのはおかしいでしょう?後出しはだめだよ?」
鈴奈の楽しむような顔。
ああ、またこれか。
知ってる。
いつものいじり。楽しまれているだけ。
だから、望まれた答えで。
大丈夫。いつも道理過ごしていれば誰も傷つかないから。
「もう!後出ししてないってば!」
「ふは、ごめんごめん、映優の反応がついつい面白くてさ。」
「ひどいよー、私のこといじって楽しむなんて!」
いつも道理、いつも道理。大丈夫。誰も怪しんでなんかいないから。
教室清掃の時間。
比較的仲のいい私の班が清掃当番になったときは、ごみ捨てに行く人をじゃんけんで決める。
いつもだったらじゃんけんに弱い私は一人負けしているのに、珍しく今日は一人勝ち。
じゃんけんは、本当にたまたまだった。
たまたま勝っただけ。
無意識の違和感を見つけると、いじるためのネタを見つけたクラスメートたちは私をことごとくいじる。
もう慣れっこだ。いじられたときの対応の仕方も、周りが喜んでくれる方法も、全部学んだ。
鈴奈への返し方も、佐藤君への返し方も。
誰がどう返してほしいのか、自然と理解していた。
たった一人、分からないのがこの人、栗本くん。
ふと栗本君のほうに視線を向けると、瞳がぶつかり合った。
反射的に少しだけ視線をずらす。
栗本君の瞳は動かない。
「もう、ごみ捨て行ってきていい?」