〔ほまれside〕
昔からずっと、あたしは罪悪感という名のおもりを背負って生きている。
『ほまれちゃんは普通に進学していいところに勤めて、素敵な男性と出会ってお家を継いでね』
三姉妹の末っ子。身の回りのものはほとんどがおさがりで、新しいものを買ってもらうのは、誕生日とクリスマスくらいだ。洋服はもちろん、ランドセルも裁縫道具も、ほとんど全てが姉たちから継承されたもので、周りのクラスメイトたちがピカピカのものを使っているのが、本当はずっと羨ましくてたまらなかった。
メリットとデメリット。それはどの物事にも必ずと言っていいほど存在していて、自分が末っ子で生まれたメリットを必死に探して生きてきた。
甘えられる、なんてそんなことはない。むしろその逆で、いつだってあたしは二の次三の次だった。姉たちよりも雑に扱われ、ほとんど空気と同化してしまっていたあたしは、家を出て散歩をすることが好きだった。好きだった、というよりも好きになった、というほうが正しいかもしれない。
自分にはそれしかすることがなかったから、きっと勝手に身体が趣味にしてしまったのだと思う。少しでも日々の中に楽しさを見出したかったのだ。
『えっと……ほまれちゃん?』
恋の始まりは、一目惚れだった。
可憐さや淑やかさ、儚さが重なった彼女は、あたしとはなにもかもが反対だった。どう頑張ってもあの雰囲気は自分には出せない。そう認識したあのときから、あたしは桜都に惹かれていた。
後ろにはすでに花が散ってしまった桜と、それを待っていたかのように新緑に染まる葉桜。美しい緑が彼女と重なり、少しだけ細められた瞳の奥ゆかしさにあたしは恋をしてしまったのだ。
『ごめん……だれ?』
『私はかしわぎおと。ほまれちゃんのおうちと近くのはずなんだけど、おぼえてない?』
母と姉の圧に潰されていたあたしは、挨拶をするにもいつも背後に隠れていて。だから同年代の子を見ることなどできなかった。
『ひとりでいるなら、一緒におさんぽしようよ』
『え……』
『私、ほまれちゃんとお話ししてみたいって思ってたの』
鈴が鳴るような、心地よい響き。どうしてこんなに可愛いのだろう。近くにいるだけで嬉しくて、それと同時に苦しくなってしまうのだろう。
そんな自問自答を繰り返しながら過ごす日々に、あたしは全力で恋をしていた。
『智花が……死んだ? なんで、どうしてよ…』
すべてが狂い始めたのは、いちばん上の姉が自ら死を選んだことだった。
成績優秀、容姿端麗、周りからの信頼も厚く、近所の評判も抜群の才色兼備。毎日笑みを絶やすことなく、完璧な"優等生"だった彼女は、誰にも助けを求めることなく、誰にも素振りを見せることなく、静かにこの世を去った。
『とも姉、どこ行くの?』
『うーん、ちょっとお散歩』
『こんなに暗いのに? 危ないよ』
『大丈夫だよ。もう高校生なんだから』
姉の最後の姿を見たのは、あたしだった。
もしあたしが違和感に気付けていれば、姉を救うことができたかもしれない。
暗闇が怖いから塾の帰りですら迎えに来てもらっていたはずなのに、その日は夜が更けるのを待っていたかのように外出していったこと。どうせよく見えないのにメイクをばっちりしていたこと。もしかすると発見された時に少しでも綺麗でいたいっていう姉の最後の見栄だったのかな。
人はあっけなく死んでしまう。思わぬときに、ぷつりといなくなってしまう。
誰もが当たり前のように毎日死ととなり合わせで生きていて、始めがあれば終わりが来るように、この世に生をうけた以上は確実に死を迎える。それがいつなのかは神のみぞ知る。
けれどまだ幼かったあたしにとって、"死"という言葉をこんなにもはやく、身近で聞くことになるとは思ってもみなかった。
当然のように母は狂い、長女の死がきっかけで一気に期待をかけられた次女は、引きこもりになってしまった。
『出てきなさい九実。智花の代わりはあなたしかいないのよ』
『荷が重いよ!! ウチにぜんぶ押し付けてくんな!!』
『そんな引きこもりみたいな生活してたら、あなた将来苦労するわよ!? お母さんはあなたのためを思って……』
『ここまで追い込んだのは誰だよ!! 被害者ヅラするな……っ!!』
割れるガラスの音。ドアが叩きつけられる音。食器が落ちる音。
自室にいても聞こえてくる怒号と叫び声。そんなものに囲まれながら生活していくうちに、笑顔のつくり方など忘れてしまった。正確には、本当の笑い方を忘れてしまった。
母との激しい言い合いで完全に引きこもりになった姉の九実。
嫌な予感はしていた。分かっていた。次なる母の期待が誰に向くかなんて。
『ほまれ。あなたはお姉ちゃんたちみたいになってはだめよ。普通に学校に行ってお家を継いでくれるだけでいいんだから、こんな簡単なことぐらいできるわよね』
勉強は、部活は、受験はどうするの、いい人はできたの。
何をそんなに必死になっているのだろう。
娘三人を残して旦那に逃げられた傷というのはここまで彼女を追い詰めるのだろうかと、そんな他人事のようなことを思ってしまった。
お母さん。残念ながら、あたしはあなたの期待には応えることができないみたいです。
あなたの未来設計図のように、お家を継ぐことはできません。あたし、好きな人がいるんです。その人との未来じゃないなら、あたしは結婚などしたくありません。ごめんなさい。でもこれだけは妥協できない。おさがりをもらったときみたいに「まあいいか」なんて感情では到底とどめられないのです。
記した言葉をぐしゃっと丸める。
だめだ。絶対にこんなの伝えられない。見せられない。これを渡してしまったが最後、お母さんは確実に壊れてしまうだろうから。
好きとか嫌いとか、そんな感情すら生まれなくても家族は家族。人間らしい情が残っていたからか、ただ単に面倒ごとに巻き込まれるのが嫌だったのか。
桜都のことが好きなんだよ、って。
たったそれだけの言葉を伝えないまま罪悪感だけを背負って、あたしはここまで生きてきた。
誰よりも明るく振る舞って、勉強も運動も頑張って、目指すは一番上の姉。とも姉と重なるたび、母はあたしを見るようになった。あたしを通したとも姉に話しかけるようになった。
幼馴染みのポジション的に、あたしはアホキャラに適任だから。知ってることも、知らないふりをして。精一杯演技をして、いつも元気で裏表のない女の子を偽って。
苦しいな、やめたいなって思いながら、嘘に嘘を重ねて彼女の隣に並んできた。
一緒にいられるだけでいい、この想いなど届く必要がないと思いながら。けれど、望んでしまった。この気持ちを知ってほしいと思ってしまった。色が違うというだけで、恋愛対象として意識してもらえないのだ。
ノンケに恋をするということは、あたしが想像していたよりもはるかに苦しく険しい道だった。
ノンケ。それすなわち、同性愛者から見た異性愛者のこと。
花火のあとに呟いてしまった言葉に反応しなかったあたり、意味がわかっていないのだろう。それは、彼女の気持ちを知るのには十分すぎた。
この夏の世界、朝目が覚めたら愛しい人の顔があって。逆に、彼女の目覚めを見ることもできて。
この世界は、色々な意味で夢の世界なのだと思った。夢のような哀しい物語の世界。浸りすぎたら帰れなくなる。
ねえ、桜都。
あたしの幸せの叶え方なんてね、簡単なんだよ。分かっているんだよ。
ただ、それを実行できるはずなくて。なんならこのままずっとこの世界にいたいって、そんなことを思っていたんだよ。でも、伝えてしまった。想いが溢れるっていう気持ち、初めて知ったよ。
こんなに我慢できなくなるんだね。止まらなくなってしまうんだね。
自分ではどうしようもなくて、その先を期待してはいけないのに心のどこかで期待してさ。奇跡を願って、どうしようもなく絶望する。
すべて、男女の恋愛と同じだ。
性別なんて関係ない。ここにあるのは、すべて同じ、人を想う心だけ。それなのに、どうして"普通"の枠に入れないのだろうか。否、そう思っているのはあたしだけなのかもしれない。
『どっちもお姫様じゃ、だめ、かなぁ……?』
『桜都のいちばんに……なりたいよ』
『やっと言えた……好きな人に好きって伝えることができるのって、こんなに幸せなんだね……っ』
嫌な顔ひとつせず、嫌悪の片鱗すら浮かべることなく、彼女はあたしの想いを真正面から受けてくれた。そして彼女もあたしのとなりに並んでいたいと言ってくれた。
その言葉は、親友としてなのか、それともあたしが望むものとしてなのか。
告白の返事は、元の世界で。もう一度勇気を出したその先で聞くことができるから。
あたしは彼女が戻ってくるのを待ちながら、いちばんに起こしてあげよう。
おかえり、って。そう言って起こそう。
家督を継ぐことができないこと、そんな罪悪感に押しつぶされそうになった日々に別れを告げて、あたしはあたしらしく生きていく。いくらそんなもの感じたところで、あたしは家を継ぐつもりはない。
好きな人と一緒に生きていきたい。もしそれが叶わなかったとしても、彼女よりも好きな人はこの先きっと現れないと思うから。中途半端な気持ちで、適当な人と結婚なんてしたくない。
それだったら一生独身のままで生きていく。それくらい、固い覚悟を胸に秘めて。静かに光に身を任せる。意識が朦朧として、ぼやけて霞んで消えていく。
さようなら、夏の世界。
あたしに勇気を与えてくれたこと、本当に感謝します。
桜都。
元の世界で待ってるから、絶対に戻ってくるんだよ。
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昔からずっと、あたしは罪悪感という名のおもりを背負って生きている。
『ほまれちゃんは普通に進学していいところに勤めて、素敵な男性と出会ってお家を継いでね』
三姉妹の末っ子。身の回りのものはほとんどがおさがりで、新しいものを買ってもらうのは、誕生日とクリスマスくらいだ。洋服はもちろん、ランドセルも裁縫道具も、ほとんど全てが姉たちから継承されたもので、周りのクラスメイトたちがピカピカのものを使っているのが、本当はずっと羨ましくてたまらなかった。
メリットとデメリット。それはどの物事にも必ずと言っていいほど存在していて、自分が末っ子で生まれたメリットを必死に探して生きてきた。
甘えられる、なんてそんなことはない。むしろその逆で、いつだってあたしは二の次三の次だった。姉たちよりも雑に扱われ、ほとんど空気と同化してしまっていたあたしは、家を出て散歩をすることが好きだった。好きだった、というよりも好きになった、というほうが正しいかもしれない。
自分にはそれしかすることがなかったから、きっと勝手に身体が趣味にしてしまったのだと思う。少しでも日々の中に楽しさを見出したかったのだ。
『えっと……ほまれちゃん?』
恋の始まりは、一目惚れだった。
可憐さや淑やかさ、儚さが重なった彼女は、あたしとはなにもかもが反対だった。どう頑張ってもあの雰囲気は自分には出せない。そう認識したあのときから、あたしは桜都に惹かれていた。
後ろにはすでに花が散ってしまった桜と、それを待っていたかのように新緑に染まる葉桜。美しい緑が彼女と重なり、少しだけ細められた瞳の奥ゆかしさにあたしは恋をしてしまったのだ。
『ごめん……だれ?』
『私はかしわぎおと。ほまれちゃんのおうちと近くのはずなんだけど、おぼえてない?』
母と姉の圧に潰されていたあたしは、挨拶をするにもいつも背後に隠れていて。だから同年代の子を見ることなどできなかった。
『ひとりでいるなら、一緒におさんぽしようよ』
『え……』
『私、ほまれちゃんとお話ししてみたいって思ってたの』
鈴が鳴るような、心地よい響き。どうしてこんなに可愛いのだろう。近くにいるだけで嬉しくて、それと同時に苦しくなってしまうのだろう。
そんな自問自答を繰り返しながら過ごす日々に、あたしは全力で恋をしていた。
『智花が……死んだ? なんで、どうしてよ…』
すべてが狂い始めたのは、いちばん上の姉が自ら死を選んだことだった。
成績優秀、容姿端麗、周りからの信頼も厚く、近所の評判も抜群の才色兼備。毎日笑みを絶やすことなく、完璧な"優等生"だった彼女は、誰にも助けを求めることなく、誰にも素振りを見せることなく、静かにこの世を去った。
『とも姉、どこ行くの?』
『うーん、ちょっとお散歩』
『こんなに暗いのに? 危ないよ』
『大丈夫だよ。もう高校生なんだから』
姉の最後の姿を見たのは、あたしだった。
もしあたしが違和感に気付けていれば、姉を救うことができたかもしれない。
暗闇が怖いから塾の帰りですら迎えに来てもらっていたはずなのに、その日は夜が更けるのを待っていたかのように外出していったこと。どうせよく見えないのにメイクをばっちりしていたこと。もしかすると発見された時に少しでも綺麗でいたいっていう姉の最後の見栄だったのかな。
人はあっけなく死んでしまう。思わぬときに、ぷつりといなくなってしまう。
誰もが当たり前のように毎日死ととなり合わせで生きていて、始めがあれば終わりが来るように、この世に生をうけた以上は確実に死を迎える。それがいつなのかは神のみぞ知る。
けれどまだ幼かったあたしにとって、"死"という言葉をこんなにもはやく、身近で聞くことになるとは思ってもみなかった。
当然のように母は狂い、長女の死がきっかけで一気に期待をかけられた次女は、引きこもりになってしまった。
『出てきなさい九実。智花の代わりはあなたしかいないのよ』
『荷が重いよ!! ウチにぜんぶ押し付けてくんな!!』
『そんな引きこもりみたいな生活してたら、あなた将来苦労するわよ!? お母さんはあなたのためを思って……』
『ここまで追い込んだのは誰だよ!! 被害者ヅラするな……っ!!』
割れるガラスの音。ドアが叩きつけられる音。食器が落ちる音。
自室にいても聞こえてくる怒号と叫び声。そんなものに囲まれながら生活していくうちに、笑顔のつくり方など忘れてしまった。正確には、本当の笑い方を忘れてしまった。
母との激しい言い合いで完全に引きこもりになった姉の九実。
嫌な予感はしていた。分かっていた。次なる母の期待が誰に向くかなんて。
『ほまれ。あなたはお姉ちゃんたちみたいになってはだめよ。普通に学校に行ってお家を継いでくれるだけでいいんだから、こんな簡単なことぐらいできるわよね』
勉強は、部活は、受験はどうするの、いい人はできたの。
何をそんなに必死になっているのだろう。
娘三人を残して旦那に逃げられた傷というのはここまで彼女を追い詰めるのだろうかと、そんな他人事のようなことを思ってしまった。
お母さん。残念ながら、あたしはあなたの期待には応えることができないみたいです。
あなたの未来設計図のように、お家を継ぐことはできません。あたし、好きな人がいるんです。その人との未来じゃないなら、あたしは結婚などしたくありません。ごめんなさい。でもこれだけは妥協できない。おさがりをもらったときみたいに「まあいいか」なんて感情では到底とどめられないのです。
記した言葉をぐしゃっと丸める。
だめだ。絶対にこんなの伝えられない。見せられない。これを渡してしまったが最後、お母さんは確実に壊れてしまうだろうから。
好きとか嫌いとか、そんな感情すら生まれなくても家族は家族。人間らしい情が残っていたからか、ただ単に面倒ごとに巻き込まれるのが嫌だったのか。
桜都のことが好きなんだよ、って。
たったそれだけの言葉を伝えないまま罪悪感だけを背負って、あたしはここまで生きてきた。
誰よりも明るく振る舞って、勉強も運動も頑張って、目指すは一番上の姉。とも姉と重なるたび、母はあたしを見るようになった。あたしを通したとも姉に話しかけるようになった。
幼馴染みのポジション的に、あたしはアホキャラに適任だから。知ってることも、知らないふりをして。精一杯演技をして、いつも元気で裏表のない女の子を偽って。
苦しいな、やめたいなって思いながら、嘘に嘘を重ねて彼女の隣に並んできた。
一緒にいられるだけでいい、この想いなど届く必要がないと思いながら。けれど、望んでしまった。この気持ちを知ってほしいと思ってしまった。色が違うというだけで、恋愛対象として意識してもらえないのだ。
ノンケに恋をするということは、あたしが想像していたよりもはるかに苦しく険しい道だった。
ノンケ。それすなわち、同性愛者から見た異性愛者のこと。
花火のあとに呟いてしまった言葉に反応しなかったあたり、意味がわかっていないのだろう。それは、彼女の気持ちを知るのには十分すぎた。
この夏の世界、朝目が覚めたら愛しい人の顔があって。逆に、彼女の目覚めを見ることもできて。
この世界は、色々な意味で夢の世界なのだと思った。夢のような哀しい物語の世界。浸りすぎたら帰れなくなる。
ねえ、桜都。
あたしの幸せの叶え方なんてね、簡単なんだよ。分かっているんだよ。
ただ、それを実行できるはずなくて。なんならこのままずっとこの世界にいたいって、そんなことを思っていたんだよ。でも、伝えてしまった。想いが溢れるっていう気持ち、初めて知ったよ。
こんなに我慢できなくなるんだね。止まらなくなってしまうんだね。
自分ではどうしようもなくて、その先を期待してはいけないのに心のどこかで期待してさ。奇跡を願って、どうしようもなく絶望する。
すべて、男女の恋愛と同じだ。
性別なんて関係ない。ここにあるのは、すべて同じ、人を想う心だけ。それなのに、どうして"普通"の枠に入れないのだろうか。否、そう思っているのはあたしだけなのかもしれない。
『どっちもお姫様じゃ、だめ、かなぁ……?』
『桜都のいちばんに……なりたいよ』
『やっと言えた……好きな人に好きって伝えることができるのって、こんなに幸せなんだね……っ』
嫌な顔ひとつせず、嫌悪の片鱗すら浮かべることなく、彼女はあたしの想いを真正面から受けてくれた。そして彼女もあたしのとなりに並んでいたいと言ってくれた。
その言葉は、親友としてなのか、それともあたしが望むものとしてなのか。
告白の返事は、元の世界で。もう一度勇気を出したその先で聞くことができるから。
あたしは彼女が戻ってくるのを待ちながら、いちばんに起こしてあげよう。
おかえり、って。そう言って起こそう。
家督を継ぐことができないこと、そんな罪悪感に押しつぶされそうになった日々に別れを告げて、あたしはあたしらしく生きていく。いくらそんなもの感じたところで、あたしは家を継ぐつもりはない。
好きな人と一緒に生きていきたい。もしそれが叶わなかったとしても、彼女よりも好きな人はこの先きっと現れないと思うから。中途半端な気持ちで、適当な人と結婚なんてしたくない。
それだったら一生独身のままで生きていく。それくらい、固い覚悟を胸に秘めて。静かに光に身を任せる。意識が朦朧として、ぼやけて霞んで消えていく。
さようなら、夏の世界。
あたしに勇気を与えてくれたこと、本当に感謝します。
桜都。
元の世界で待ってるから、絶対に戻ってくるんだよ。
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