「とりあえず、今回俺がお前に話したかったことはここまでだ。
先程もいったが、円の生前にお前との婚姻の了承は既にもらっている。だがやはり俺としては強制的な形だけの婚姻はしたくない」

大泊瀬皇子(おおはつせのおうじ)はそういうとまた韓媛(からひめ)に歩みよってきた。

韓媛はそんな彼を目にして思わず後ろに下がろうとするが、皇子はそれを許さずに両手で彼女の肩をつかんだ。

そして彼はひどく真剣な目で彼女にいった。

「韓媛、お前は俺のことをどう思ってる?」

(そんな、どうといわれても……こういう時は普通何て答えたら良いの)

韓媛は彼にどう答えたら良いか分からず、中々言葉が出てこない。

「もちろん、今すぐ好きになれとはいわない。だが少しずつでも良いから俺のことを見てくれないか。お前のことは一生をかけて絶対に幸せにする」

韓媛はそんな彼の言葉を聞いて感動の余り涙が出てきた。
だが皇子からするとこの涙の理由がどうも理解できていないようだ。

「やはり、自身の父親を自害に追いやったおれは嫌か。だがそれでも俺はお前のことが……」

韓媛はそんな大泊瀬皇子を見て、これははっきりいわないと彼には伝わらないと思った。そして彼女は思わず彼の胸に飛び込む。

「違います、大泊瀬皇子。まさかこんな嬉しいことを皇子からいってもらえるとは思ってなかったので」

「韓媛、今何といった?」

それから彼女は少し体を離して、彼の目を見て自身の気持ちを伝える。

「大泊瀬皇子、私もあなたのことが好きです。だからずっとあなたに愛されたいと思ってました」

韓媛もここまでいうのが限界だった。だがはっきりと自分の気持ちを伝えられ、とても安心した気持ちになる。

だがその衝撃と感動は大泊瀬皇子の方がはるかに大きかった。ここまでいわれてしまえば、彼ももう気持ちを抑える必要がなくなる。

「韓媛、今いったことは本当か……」

韓媛は思わず笑みを見せて「うん」と頷いてみせる。

すると大泊瀬皇子は再度彼女を抱き締めた。だが先程のような強引さはなく、とても優しい抱きしめ方だった。

「韓媛、もう絶対にお前を手放したりしない」

「はい、私も皇子とずっと一緒にいたいです」

それから2人は互いの顔を見合わせ、どちらからともなくゆっくりと口付けを交わしていく。

そしてその後唇を離した2人は、互いにしっかりと抱きしめあった。

こうして韓媛と大泊瀬皇子はやっとお互いの気持ちを通じ合わせることができた。

だが次の大王も決まっておらず、2人の道のりはまだまだ前途多難な状態である。


こうしてその日を境に、大泊瀬皇子が韓媛の元に度々通い続けることとなった。