韓媛(からひめ)大泊瀬皇子(おおはつせのおうじ)を見るなり、彼に向かって叫んだ。

「お、大泊瀬皇子ー!!」

大泊瀬皇子は韓媛に名前を呼ばれ、はっと我に返った。

「韓媛ー!!」

彼はすぐさま彼女のそばに行き、彼女を抱き締めた。

「韓媛、本当にお前が無事で良かった……」

韓媛もそんな彼の言葉に思わず涙が込み上げてくる。
だが今は感動の再会に酔いしれている時ではない。

彼は韓媛から少し離れると「とりあえず、今は外に早く出るぞ」といって彼女の手を握って走り出した。

韓媛は彼に手を握られながら走っている中、どうして彼がこんな危険を犯してまでも、自分を助けにきてくれたのか不思議でならなかった。

(どうして皇子は、私を助けにきたのかしら?)


そして2人は何とか外に脱出することができた。

韓媛は外に出るなり自身の住居一体を見つめる。すると炎は一気に燃え上がり、住居全体を炎が覆い尽くしていった。

(駄目だわ、お父様達はもう完全に助からない……)

韓媛はその場で、目一杯声を張り上げて叫んだ。

「お、お父様ー!!」

すると彼女の目からは大粒の涙が溢れる。最愛の父親を失なってしまい、彼女はこの悲しみをどうしたら良いのか分からない。

すると彼女は思わず横にいる大泊瀬皇子を睨んだ。そして彼の胸をパカパカと叩いていった。

「どうして、どうして、お父様が死ななければいけないのよ!!」

彼女は何ともやるせない思いを大泊瀬皇子にぶつけた。

すると彼は彼女の両手を付かんで、自分の方に顔を向けさせた。

「韓媛、恨むなら俺を恨め! お前の怒りや苦しみは全部俺が受け止めてやる!!」

(お、大泊瀬皇子……)

大泊瀬皇子にそういわれて、韓媛は思わず彼の胸に飛び込んだ。そして声をひどく荒らげてひたすらその場で泣き続けた。

大泊瀬皇子はそんな彼女を抱きしめて、ただただ彼女の泣き声を受け止めてやるほかなかった。

「韓媛、本当に済まない。お前にこんな思いをさせるつもりはなかった。だがどうすることもできなかったんだ」

こうしてその場にいた者達は、この炎が消えるまでその光景を見続けた。