だが既に大泊瀬皇子(おおはつせのおうじ)は完全に我を失っていた。そしてそのまま一気に境黒彦皇子(さかいのくろひこのおうじ)に剣を向けてくる。

すると境黒彦皇子は半場やけくそになり、再び彼に剣を振りかざす。

大泊瀬皇子は1度境黒彦皇子の剣を受け止めると、素早く一歩後ろに下がり、そこから一気に相手の腹辺りを斬りつけた。

境黒彦皇子は腹を切られて、余りの痛みに「ギャー!!」とその場で叫んだ。

そして大泊瀬皇子はさらにもう一振彼に剣を浴びる。

すると境黒彦皇子はそのまま倒れて、その後息を引き取った。

一方八釣白彦皇子(やつりのしろひこ のおうじ)はまだかすかに息があった。だがこれだけの傷なら到底助からない。

大泊瀬皇子は八釣白彦皇子の前に来ると、再度剣を刺して彼の息の根も止めた。


大泊瀬皇子は2人の兄が死んだのを目にすると、やっと我に返った。

(俺は兄上達を殺してしまった……)

だがこの状況ではやり返さないと、自分が死んでしまう所だった。

そしてその時ふと何かの音がした。

大泊瀬皇子が振り返ると、そこには宮の使用人の男がいた。彼はぶるぶると震えながらその場に座り込んでいた。

どうやら今まで見ていた光景の余りの恐ろしさに、腰が引けて動けなくなってしまったようだ。

「お前、いつからそこにいた」

大泊瀬皇子は低い声でその使用人の男に声をかけた。先程の異様な恐ろしさは消えているが、それでも彼はまだ神経をとがらせている。

すると男は口をがくがくさせながらいう。

「は、はい。最初に大泊瀬皇子の叫び声が聞こえたのでやってきました。そしてゆっくりと中を覗くと、2人の皇子が大泊瀬皇子に剣を向けられていて……」

大泊瀬皇子はそれを聞いて、この男に証言して貰えればこの件は収まるだろうと考えた。

「なるほど、お前はこの経緯は全部見ていたということだな。であれば、悪いがこの件はお前から他の者達に説明してもらえないか」

それを聞いた男は言葉を発することが上手くできず、とりあえずコクコクと頷いた。


大泊瀬皇子はそれから急いで兵を集めることにした。相手は子供といえどあの葛城円(かつらぎのつぶら)の元にいる。それなりの準備は必要とえた。

そして皇子の異常な恐ろしさに恐怖を感じた周りの者達は、そんな彼に誰も逆らうことができずに、大人しく従うことにした。


彼は兵を集め終えると、そのまま眉輪(まよわ)がいる葛城円の元に向かうことにした。