大泊瀬皇子(おおはつせのおうじ)韓媛(からひめ)無事だったか」

「あぁ、(つぶら)本当に迷惑をかけて済まなかった」

葛城円(かつらぎのつぶら)は大泊瀬皇子からそう言われると、今度は韓媛の方を見た。

「お父様! 本当に心配をかけてごめんなさい!!」

韓媛も頭を下げて謝った。

すると円は彼女の肩をつかんで、顔を上げさせた。

(駄目、叩かれる……)

彼女はそう思って、一瞬身構える。

だが彼はそのまま彼女を突然に抱き締めると、その場で声を張り上げていった。

「韓媛! お前は何て心配を私にさせるんだ!! 危うく妻だけでなく、娘まで失ってしまうかと思ったんだぞ!!」

それを聞いた韓媛は思わずぼろぼろと泣き出してしまった。

「お、お父様……本当にごめんなさい」

葛城円はそんな彼女の頭を優しく何度も撫でてやった。そんな彼も目にうっすらと涙を浮かべている。

そんな韓媛と円のやり取りを大泊瀬皇子も横で見ていた。
何はともあれ、無事に彼女と戻ってこられて本当に良かったと彼は思う。

その後、彼らは一端離宮に戻る事にした。

離宮に戻る道中、大泊瀬皇子は葛城円に、これまでの経緯を馬を走らせながら説明した。

彼もその話しを聞き、本当に驚いたようで、その後大泊瀬皇子にひたすら感謝を述べていた。彼は娘の命の恩人である。

韓媛も円と同じ馬に乗っており、ふと横を走っている大泊瀬皇子を見つめた。

(そういえば私、皇子が好きな事に気付いてしまったのよね……)

だが彼はいずれ別の姫を正妃に娶り、またその姫とは別に本命の女性がいる。とても自分が想いを打ち明けられる相手ではない。

そのため、韓媛はこの想いは内に秘めるしかないと思った。

(もう彼の事は、時間をかけて忘れるしかない)

こうしてしばらく馬を走らせた後、韓媛達は無事に離宮に戻る事が出来た。