根使主(ねのおみ)はその奉り物である押木玉蘰(おしきのたまかずら)を見て、その余りの見事さにとても感動する。

(これは、何と素晴らしい髪飾りだろう……)

そしてその後、根使主は大草香皇子(おおくさかのおうじ)からの返事と、この奉り物を持って穴穂大王(あなほのおおきみ)の元に向かう事にした。


だが大草香皇子の宮の帰りの道中、彼はひどく考え込んでいた。

(大草香皇子から預かったこの奉り物は本当に見事な髪飾りだ。出来るなら自分の物にしてしまいたい……)

彼は帰りの道中、その事がずっと頭から離れることがなかった。
むしろその思いは、どんどん彼自身の中で膨れ上がっていった。




そしてその後、根使主はいよいよ穴穂大王の元に戻って来た。

「根使主、今回は本当にご苦労だった。それで叔父上は何といっていたのだ?」

根使主は穴穂大王にそう聞かれて、どうしてもあの奉り物が諦めきれず、それで彼に偽りの事をいってしまった。

「大草香皇子は勅命には従わず、私に申すに『例え同族であるとは言えど、私の妹をどうして差出すことができましょう』といってきました」

それを聞いた穴穂大王は、その場でとても激怒した。

「何だと! 叔父上はそんな事をいってきたのか!!」

(叔父上のやつ……何て高慢なんだ。俺が大王になった事が、それ程までに気にくわないのか!)

「は、はい。大草香皇子は確かにそうおっしゃられました」

根使主は、そんな穴穂大王の様子を見て恐ろしくなり、思わず体を震わせながらそう答えた。

「叔父上は、俺に対して謀反の心があるやもしれない。よし、それならすぐに兵を送り込んで始末する」

それを聞いた根使主は、余りの事に血の気が一気に引いた。だが今さら本当の事をよう話す事も出来ない。

(まてよ、あそこには中磯皇女(なかしのひめみこ)がいる。彼女はそのまま俺の元に連れてくるか)

彼の脳裏にある案が浮かんだ。
すると彼は少し、不適な笑みを浮かべた。




それから穴穂大王はすぐさま、大草香皇子の宮に兵を遣わす事にした。
そして大草香皇子の家を取り囲み、そのまま攻め殺してしまう。

その際に、大草香皇子に使えていた難波吉師日香蚊(なにわのきしのひかか)親子は、主人が罪なく殺された事を知る。
そんな父と彼の2人の子供は、殺された皇子の体を抱いてとても悲しんだ。

その後に彼ら親子は、亡き主人の後を追うべく、ためらわず自らの首をはねて一緒に死んでいった。

そんな親子を見た兵たちは、皆とても悲しみ涙を流した。


それから大草香皇子の妃であった中磯皇女は、穴穂大王の皇后としてその後召される事となる。
その際には、中磯皇女と大草香皇子との間に出来た息子の眉輪王(まよわのおおきみ)も一緒であった。

こうして、大草香皇子の悲惨な事件は終わりを遂げる事となる。