こうして穴穂大王(あなほのおおきみ)は、大泊瀬皇子(おおはつせのおうじ)の同意を得て、彼の妃に草香幡梭姫(くさかのはたびひめ)を希望する事にした。

そこで、草香幡梭姫の兄にあたる大草香皇子(おおくさかのおうじ)の許可を得るため、彼の元に根使主(ねのおみ)を遣わした。

大王からの指示を受けた根使主は、早速大草香皇子の元へと向かう事にした。

「草香幡梭姫は、先の大王の皇女だ。今まで中々嫁がせなかった姫だけに、そう上手く行くのだろうか」

根使主は大草香皇子の元へ馬で向かっている道中、そんな事を考えていた。
だが今回の件は、穴穂大王に信頼されての事なので、最善を尽くすほかない。

そして、いよいよ大草香皇子のいる宮にたどり着いた。

すると彼は、そのまま大草香皇子の元へ通される事となった。穴穂大王からの使いと説明したので、直ぐに皇子の元に行かせてもらえるようだ。

そして彼は大草香皇子の前にやって来た。皇子はいたって落ち着いた感じでその場に座っている。

そして皇子の許可をもらった後、彼もその場に座って挨拶をした。

「私は穴穂大王からの使いで来ました、根使主と申します」

彼はそういうと、大草香皇子の前でお辞儀をした。

「わざわざ、ここまで出向いてもらってご苦労。それで、私に何の用事でしょう?」

そこで根使主はさっそく、穴穂大王からの伝言を伝える事にした。

「はい、実はですね。あなたの妹ぎみである草香幡梭姫を、大王の弟皇子である大泊瀬皇子の妃にしたいと申されてます。それでその許可をいただきたく、私が遣わされた次第です」

大草香皇子はそれまでは落ち着いて聞いていたが、その話しを聞いた途端、とても驚愕する。

「な、何! 草香幡梭姫を大泊瀬皇子の妃になどと!!」

大草香皇子は余りの衝撃に、思わずその場で叫んだ。
そして、何やら一人で急にあれこれと考え出した。

根使主も、そんな大草香皇子の慌てぶりをただただ呆然と眺めていた。

(あの大泊瀬皇子が、草香幡梭姫を妃に望むとは意外だったな。でも、こんな機会はそうそうやって来ないだろう)

「私は今重い病を抱えています。でもそれも寿命だと思う事にしてきました。
ただ妹の草香幡梭姫を残して逝くのが、どうも気がかりで……
そんな中、大泊瀬皇子の妃にして頂けるとは何と有難い事でしょう」

大草香皇子はそう言って、穴穂大王からの申し入れをとても喜んだ。

根使主はその後、今回の経緯や大泊瀬皇子の条件等も説明したが、それも大草香皇子は承諾するといってきた。

例え建前上だけの婚姻だとしても、それでも妹を嫁がせずにいるよりは良いだろうと彼は思った。

だが言葉だけでの返事では大変失礼だと思い、すぐさま妹の奉り物を持ってくる事にした。

そして彼は、家宝の【押木玉蘰(おしきのたまかずら )】を根使主に見せ、これを献上するといった。

押木玉蘰とは、この時代の髪飾りで、形の良い木の枝に玉を付けたものである。