大泊瀬(おおはつせ)、さすがのお前でもだいぶ疲れてきてるようだな……」

市辺皇子(いちのへのおうじ)がいうように、大泊瀬皇子(おおはつせのおうじ)の体力もういよいよ限界に来ていた。

「ふん、それはお互い様だろう」

そういって大泊瀬皇子は、市辺皇子の剣を跳ね返した。

彼らは従兄弟とはいっても年齢的には一回り以上離れている。

それでもまだ10代の自分と、ここまでやりあえる市辺皇子は本当に凄まじいと大泊瀬皇子は思った。

(恐らく市辺皇子は、今回相当な覚悟でここまで来たのだろう。俺はきっとその気迫に押されているんだ……)

市辺皇子は一瞬韓媛(からひめ)阿佐津姫(あさつひめ)を見た後に、再び大泊瀬皇子に声をかける。

「俺はもうこれ以上大事な者を失いたくないんだ。家族に恵まれ、昔から恋い焦がれていた娘さえ手に入れたお前に、俺の気持ちなど分かりはしない!」

そういって再び市辺皇子は大泊瀬皇子に飛びかかっていく。

(うん、大事な者を失いたくない……あいつの両親の話しか。それとも今でも想いを寄せているであろう彼女のことか)

大泊瀬皇子は一瞬そんなことを脳裏に浮かべた。

するとその隙を見て市辺皇子が大泊瀬皇子の肩に剣で切りつけた。

「う、うわー!!」

大泊瀬皇子の肩に物凄い激痛が走った。

そして彼は思わず後ろに後退する。彼の肩からは血がどんどんと流れ出した。

こうなると、彼も中々思うように剣を振るえない。

(う、うそよね。大泊瀬皇子が負けてしまうの……)

「大泊瀬皇子!!いやー!!」

韓媛は思わずそう叫んで、がたがたと体を震えだす。
そして目から沢山の涙が溢れだした。

「大泊瀬、悪いが止めを刺せてもらう。これが今後の大和の為だ!」

そういって市辺皇子は、剣を振りかざそうとした。

それを見た阿佐津姫「お願いよ市辺、もう止めて!!」と叫んで、思わず2人の元にかけよっていこうとした。

その阿佐津姫の行動を見た市辺皇子は、そんな彼女に一瞬気を取られてしまい、思わず彼の手が止まる。

大泊瀬皇子はそんな彼を見て、反射的に剣を前に出して市辺皇子の腹を刺した。

市辺皇子は自身の体に剣を打ち込まれると、口から血を吐き出す。
そしてそのまま彼はその場に崩れ落ちていった。

「い、市辺皇子……う、うそだろ」

大泊瀬皇子は余りのことに訳が分からない状態になった。自分が市辺皇子を刺したことですら、全く自覚が持てていない。

(お、俺が市辺皇子を刺してしまったのか)

その光景を間近で見ていた阿佐津姫も思わずその場で叫んだ。

「い、市辺皇子ー!!」